zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

チョコ

「おじゃまします、非番のところすみません」
ぺりぺりぺり
「?」
奥の六畳間でナカムラがちゃぶ台に向かって背を丸めていた。
「ナカムラさん」
「んー?」
ぺりぺりぺり
「何してるんです?」
「あ、これね」振り向いたナカムラの指先に銀色の小さな棒が光っている。
「フィンガーチョコだよ。きょう出先の菓子量販店で見かけてさ、懐かしくなって買って来ちゃったんだー」
「あ、なつかしい」
「お、知ってたか!おれ子供のころこれが大好きでさー」
「俺もです」
細長いケースの中から銀の棒を一つつまみ上げ、明かりにかざして眺める。
「クリスマスのような子供が多く集まる集会ののときよく配られて。銀色と金色の包み紙があって、たまに赤いのや青いのもあって、子供心に宝物遺みたいに貴重なお菓子に見えましたね…」
すこし夢見るような表情で、カガミは目の前の銀の紙に包まれたチョコを見つめた。
「わかるなー。また配られ方もさ、1,2本とかみみっちくてな。家ではこの手のおやつなんて出さなかったしね。イベントだけでもらえるお菓子、そりゃありがたみが増すよね」
笑いながら、またぺりぺりと銀紙を剥く。
カガミもご相伴にあずかろうとぺりぺり剥き、はがした銀紙をくず箱に入れようと中を見たらすでにそこにはこんもりとした銀紙の山。
「…ナカムラさん、いくら何でも食べ過ぎでは」
「へ?」
顔をあげたナカムラの口元や頬には、とけたチョコが付着していた。
「ああほら、」ちゃぶ台上のティッシュ箱から一枚抜き取り、顎に手を添えて拭きとってやる。チクチクする無精髭の感触が面白い。
「ぷふぇ」
されるまま口元を拭われ、きまり悪そうにへへ、と笑う。
「子供みたいだねえ」
「ナカムラさんが子供なら、俺は赤ん坊ですね」
「あー、おれのあと干支がぐるりと一回りしてやっとカガミが生まれたんだもんな」
「ナカムラさんと同い年でいっしょに子供時代を過ごしてみたかったですね」
「そうー?」
「きっと楽しいかと」
「そしたら子供のころからイケメンかつデキるカガミと比べられてしょんぼりして育ったかもなー」
「そんな」
「好きになる女の子かたっぱしからカガミ好きになっちゃってさ…きっとカガミ宛のラブレターを渡してくれって託されちゃったり…」
「ラブレター?」
「そうそう」
「もらったことありませんが」
「あら意外」
「俺、恋人どころか友人もいませんでしたから」
「へえ…ああ、両親居なくて忙しくしてたせいかぁ」
「確かにバイトと学業と剣道で手一杯でしたが、もともと友人や恋人をとりたてて欲しいと感じたことはなかったですね。まあ自分がそんなですから、向こうから寄ってくることもほとんどなかったですし」
「へぇー、そんなもんなの」
「妹がいれば、それでじゅうぶんです」
「あぁ…(シスコンめ」
「それに今はナカムラさんもいますし」
「あら~光栄、い?」

ぺろ

「ぷふぇ」
「チョコ、まだついてましたよ」そう言って舌をぺろりとのぞかせる。
「えっちょちょっとカガミ、」
「念いりにとりましょうね」
「ま、まってカガっ」


「甘い」
「…しょうがないでしょ」

なべて世はこともなし。