zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

一服

「あのーカガミ警視、何かありました…?」
「は、何か、とは」
「いえね、言っちゃなんですが朝からずっと変なんですよねー、デスクの上のスマホじっと眺めちゃため息ついて、ときどきデスクに突っ伏してたり、会議の時間を間違えて遅れそうになるし」
「ははは、それいつもの係長みたいじゃないですかぁ」と向かい席の刑事が口を挟む。
「ははぁそういえばそうだねえ、わたしのおつむはユーウツな会議の時間とかさ、忘れるようにうまくできているから…って、もー茶々入れるんじゃないの」同僚を軽くいなして、ナカムラはまたカガミに向き直り顔を覗き込む。「…疲れがたまってるんじゃありません?今日はもうわたしらで何とかしますから、帰って休んだ方がいいですよ」
「いえ…大丈夫です、あの、…ちょっと離れてもらえませんか?」
「あ、こりゃすみません」近づけ過ぎた顔をパッと離し、きまり悪そうに笑う。
「ちょっと、ここ出て一服…あぁいや、自販機で飲み物でも買って一息つきましょ、警視」
促すナカムラの後を渋々カガミもついていき、二人は屋外喫煙所へ続くドアの手前にある自販機コーナーにやってきた。
「さて、ここなら誰もいませんな。それでは」ついてきたカガミを振り返り、ナカムラは言った。
「この二・三日、ホント様子がおかしいんですよね。なんか心配事でも?妹さんとケンカ…なんてわけないかぁ」
「違います」
「じゃあ、どうしたんです?実はさっき、警視が入力していた報告書覗いちゃったんですが、ぜんぶひらがなばっかり打ってましたよ?」
「えっ?ほ、ほんとですか、戻ってすぐなおさないと…」慌てて戻ろうとするカガミ。とそこへ、

「気をつけーい!!!!!」

森閑とした廊下に突如ばしんと響きわたる号令。
「はいぃぃっ!!」反射的に、思わず背筋をビシッと伸ばすカガミ。

「上に立つ者がなんというざまだ!言いたいコトあるならハッキリ言わんか――ッ!!」

「はいッ、ナカムラさん付き合ってくださいっ!!」

「…は?」

「あ”」

とっさに口をついて出た本心に一瞬の後気づいたカガミ。ザーッと血の気が引く音。
あああ、勢いで言ってしまった…告白してしまった…!

「付き合う?」
「は、はい、いえ、あの」
「いいけど」
「…え?えええっ!?」
「なんだー、なに言いにくそうにしてるのかと思えばそんなことかぁ、あははは―」
軽く笑い飛ばすナカムラに、いろいろ一気に思い巡らしまくってフラフラなカガミもつられて笑う。「は、はぁ…あははは…」
「で、どこ行くの?」
「え」
「だからぁ、おれに付き合ってほしいんでしょ?どこ行きたいの?」
「えっと…牛丼屋とか…」じゃない、誰もいない海辺とか、カスミソウゆれる野原とか、二人きり肩並べて、あわよくば手をつないで…それから…
「牛丼屋ぁ?またずいぶん近所だなぁ。なんだーそんな昼飯くらい気軽に誘ってよ…いや、お誘いいただき光栄でありますカガミ警視!」
「いや、…あの、二人だけの時は敬語は無しで…」
けっきょくこうなるのか…思いながらもほっと安堵し、「ぎゅーどん、ぎゅーどん♫」と楽しげに鼻歌を唄うナカムラの猫背を追って警視庁を出るカガミであった。