zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

聞き込み帰り、商店街を突っ切る途中。
シャッターを降ろしている店が多い中、ぽつんと小さな果物屋が開いていた。
年始まわりに買い求める客でもいるのだろうか、季節外れの果物を詰めた箱やかごが所狭しと並んでいる。その中で、瑞々しく鮮烈な赤が目を引いた。
苺か。
それを買い求めたのは真に、気まぐれからであった。
まあ、冬はビタミン不足になりがちだし。

「?ナカムラさん、その包みは」
カガミ警視が苺の袋に目を止めた。
「はぁ、署に戻る前に見かけたもので」
「へぇ、ナカムラさんが果物買ってくるなんてめずらしいなあ~」
「ひとつ下さいよ」
「あ、おれもおれも!」
「お前らなー、ひとパックしかないのに配ってたらあっという間になくなっちゃうでしょ!これはおうちに持ち帰りでございますよー」
なんだよー、けちー、などと笑いまじりにブーイングする同僚を尻目に、報告書をでっちあげてナカムラは一課を出た。

ブーッ、ブーッ
警視は振動するスマートフォンに目をやった。
「ナカムラさん?」
「警視、まだ勤務ですか?根詰めると体に触ると愚考しますがねえ」
ヘリくだった言葉を使いながらも、どこかヘラヘラした声が聞こえてきた。
「いやね、皆にはああ言ったもののやっぱ一人じゃ多すぎるんで、手伝ってもらえませんか?」
通話が終わり、やれやれというように溜息を吐いて、カガミ警視は帰り支度を始めた。

「や、警視お疲れさまであります!鍵、開いてるよー」
インターホンから聞こえる声に従い、ドアをあけて勝手知ったる部屋へ上がる。
「ナカムラさん、勤務中に私用の電話は控えていただきませんと」
「だって、おれは仕事中じゃないもんねー」
へへへと笑う部下に、こたつにあたりながら今日二つ目の溜息を吐く。
「ほらダメだって、ため息つくごとにしあわせが逃げるって言うよー?ま、足崩して召し上がれ」
ナカムラは洗いたての赤い苺を盛った皿をカガミの前に置いた。
「これは美味そうですね」
水滴をつけて光る赤い粒に目を輝かせ、ひょいとつまんでほおばる。
「あ…すみまひぇん、いただきまふ」食べる前の挨拶を忘れていたことに気付き慌てて言う。
「ははっ、そんなん良いから。好物でしょ、どんどん食べてー」
年若い上司を眺めて目を細め、きらきら赤い苺をつまんだ。口に運ぼうとして思いとどまる。
「カガミ、ほら」
「は?はい」
口に押し付けられて、そのままほおばるカガミ。
「カガミ」
「?」
「綺麗だね」
苺の赤より少し薄い唇に、ナカムラは軽く口づけて笑った。