zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

初詣0

晴れた正月の昼近く。
プルルルルル……ガチャ
「ふあぁ、あーはいはいナカムラですー」
頭上にある携帯電話をつかみ、布団に引きずり込んで応答する。
「…はい?トキコさん!?あぁ、どーもどーも、あけましておめでとうございまぁす。へ?ええ、元日はわたしも休みですけど。…はぁ…はい、はい…じゃ、1時に。いやいや、そんな事は。初詣のお供、光栄至極であります!なぁんてね、あははは。はいはい、ではのちほど~」
いかにも名残惜し気に布団から這い出ると、ナカムラは冷え切った部屋の空気にブルルッと身を震わせ、まだぬくもりの残る布団を足で部屋の隅に寄せた。
「ひゃー、女の子からデートのお誘いだよ~?ナカムラさん、こまっちゃうなー!」
困ると独り言を言いつつ、結構うきうきとした気持ちで急ぎ身支度をととのえる。
身支度といっても、ハンガーにかけっぱなしのスーツにダッフルコート、足にはスニーカーのお馴染みのいでたちである。
鍵をかけカンカンとアパートの階段を駆け下り、いつもの駅を目指した。

やぁ、いい天気だねえ。今日は風も無いし日向はぽかぽかあったかいし、なかなかの初詣日和じゃないか。
「なっかむっらさーん、こっちこっちー!」兄貴と違ってストレートな髪をゆらし、ふわふわなコート姿で手を振る姿。快晴の空の下でも、そこだけより明るく照らされているように見える。
「や~、またせたかなぁ?」と問えば、「ううん、いまきたとこ!」と茶目っ気たっぷりに返す。
「まぶしーなー、いやぁ若いっていいねえ」
「やだぁ、ナカムラさん、おじいさんじゃないんだから~」
「…おいトキコ、失礼だぞ」突然むっつりした声で横やりが入った。
「あれ、カガミいたんだ?」
「いましたよ」
「にいさん何むくれてんのよ」「むくれてなんかいない」「うそ、家出る前からどよーんとしてるじゃない」
ナカムラはふたりを制して尋ねた。
「まあまあ。で、どこの神社行きたいの?」
「ナカムラさんの行きつけのとこ!」
「えー!?いっちゃなんだが超地味だよ?」
「いいんです、ナカムラさんが毎年お参りしている神社に行きたいの」
「ふぅん…カガミ、それでいいの?」
「妹がいいと言っているならそれでいいです」
「…カガミ、なんか怒ってる?」
「いいえべつに」いや絶対不機嫌だし。
「いいからいいから、さあしゅっぱぁつ!」トキコ嬢の涼やかな声を合図に三人は歩き出した。

毎年というか、実のところ行ったり行かなかったりであったが、近所の小さな神社は元日だけにそこそこ賑わっていた。といっても賽銭箱の周りに二三人、おみくじやお守り買い求める家族が四五人というところだが。
「シブくていい雰囲気ですねぇ、さ、にいさん」「ああ」
ナカムラはふたりが並んでお参りするのを眺める。美しい恋人達を描いた、一枚の絵のようだ。
「渋い、ねえ。物は言いようだなぁ」
ナカムラは陶然として呟く。

「ナカムラさん…?」「ナカムラさん、どうしたのぼうっとしちゃって」
「あ、ああ…お参り終わったか、ごめんごめん」
「疲れているんじゃない?貴重なお休みの日だもんね、ごめんなさい、突然呼び出して」
「いやいや、そんなことないって。じゃ、おみくじでも引こうかぁ」
「はーい!」彼女は小走りで売り場へ向かって行った。
「ん?どうしたカガミ」
妹について行こうとせず、じとっとその後ろ姿を眺めているカガミに気付き、ナカムラは声をかけた。
「ふたりとも、仲良いですね…」
「へっ?」
カガミはおどおどと、しかし明らかにナカムラを咎めでもするような目でじっと見ていた。
「ナカムラさん、もしかして妹を…その、好き、なんですか?」
「はぁあ?!」こいつ新年早々いったい何を言い出すんだ?
トキコが私以外の男にあんなに心ゆるして話すの、初めて見ました…正直に言ってください、二人は付き合っているんですか?」
「ちょちょっ、カガミなに言って」
「俺以外に、あんなに満面の笑みで…信じられない、ナカムラさん、いつの間に!?」
「あのな、カガミ」
「それに正月で休みは元日だけだから、初詣はトキコと兄妹だけで行こうか、それとも…ナカムラさんさえ、よければ…ナカムラさんと二人きりで…とか……
だんだん声が小さくなり消え入りそうになるカガミ。
ナカムラは呆気にとられた。「おまえね…」
「すみません」カガミは見るからにしょぼんとしている。
トキコとナカムラさんがあまりに打ち解けているので、置いてけぼりにされたように感じて…」

「にいさん、早く早く、なにしてるの?ナカムラさんもいっしょにおみくじ引きましょうよー!」
「あ、ああ、いま行くよ!」
妹に呼ばれたことで元気が出たのか、カガミは背をしゃきっと伸ばして、妹の方へ走って行った。取り残されたナカムラは、一瞬複雑な表情をしたが、すぐにいつものへらへら顔を貼り付けて兄妹の方へ歩き始める。

「まったくね……仕事じゃいつもふたり一緒だってのにねぇ」
誰にともなく、そう呟いて。