zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

冬至

曇天の寒空。
突っ切る公園のどんよりした色彩を眺めていると、時が止まり、皮膚にひんやりと沁みる冷たい空気に包まれたまま、一生が終わってしまうような、そんな気がしてくる。鬱々とした気分を吐き出すようにハアッと息を吐くと、体温が白い吐息となって放出されるのと引き換えに、冷たい空気が体の中に入ってきて、思わずぶるっと震え身を縮こませる。
俯いて「寒いなぁ」とひとりごちる。冬に寒いのは当たり前だし、言って何が変わるわけで無し。でも何か言わずにおれないのが哀しいよなあ、と思ったところで「そうですね」と相槌を打たれてビクッとした。
ああ、二人で歩いていたんだっけ。
いつの間にか前方にカガミの背があった。ぴんと背筋を伸ばしてさっそうと歩く奴の後ろで、背を丸めてとぼとぼ歩く自分は、周りから見れば若者を風よけにして寒さをしのごうとしているみみっちいおっさんにしか見えないよなあ、と思いちょっと笑い、「なんです?」と怪訝そうに振り返る顔を見上げ、寒さで強張った曖昧な笑い顔をつくった。
「カガミってさ、寒さ強そうだよね」と適当な言葉を返す。
「そうでも、ないですけど」ちょっと当惑したように言う。「でも確かに暑い夏よりは今の時期の方が好きかもしれません」
「へぇ、夏生まれなのにねぇ」
「ナカムラさんだって11月生まれなのに冬が苦手そうじゃないですか」
「うん、そういえばそうか…」と言ったとたんくしゃみが出た。一層体が冷えて、慌ててコートの襟を寄せる。「ああやだやだ、寒いし日も短いし。冬が好きだなんて犬くらいだよ、犬なんて嫌いだ」
「べつに寒いのは犬のせいではないですよ」
「はいはい、その通りで」おどけて、畏まった素振りをする。「犬はよろこび庭かけまわり、猫はこたつで丸くなる、っと。あー、こたつで熱燗やりたいなぁ」
「もうちょっとで署に着きますから。書類提出済めば今日は放免ですよ」
「はぁい」
話しながら、ずっと目の前の背を見ていた。眩しい陽光を体内にたっぷりと蓄積したような、夏生まれの背中。あったかそうだなぁ、と思った瞬間、クラッときて頭がカガミの背にぶつかった。
「え?…どうしました、ナカムラさん!」慌てた声、倒れこんだ先はアスファルトの地面ではなくカガミの腕の中で、うわーみっともねぇと思いつつ体の自由がきかない。
「や、ごめんな、さっきから体ゾクゾクしてさ、ちょーっと、座れるとこ、あるかな」
カガミに支えられながら近くのベンチまでなんとかたどり着き、どさりと座り込む。
「ちょっとすみません」額の冷たい感触に身をすくませて目を開くと、カガミの顔が視界を占領していて仰天した、が頭がぼんやりして訳もわからず、体も動かず、もうどうでもいいやと無理に動こうとするのをあきらめ体の力を抜く。
くっつけていた額を離すとカガミは言った。「やはり、熱がある。ナカムラさん、ここにいてはますます冷えます、辛いでしょうがなんとか署まで頑張れますか?」「…うん」支えられつつ、もう一度立ち上がろうとしたが、いったん頽れた体はなかなか思うようにいかず、再びベンチにへたり込んでしまった。
「どうしよう…そうだ」
どうするんだろーと無責任にぼうっとした頭で考えていたら、「ナカムラさん、私の首に腕を回して下さい」返事する間も無く腕を取られてカガミの首を抱えさせられ、次の瞬間、視界がグイと上昇した。
「えっ」という間も無く、横抱きの状態でそのままずんずん運ばれる。「うわわわー」
「すみません、もうすぐですから」
ずんずんずん
「いやそうじゃなくてこれいわゆるお姫様抱っこ」「ナカムラさんは軽いし背負うよりこっちの方が安定するかと」
ずんずんずんずん
…それ以上は口を開くのも大儀で、大人しくしていた。真っ直ぐ前方を見据える透明な表情が、ずいぶん頼もしくて、安心して目を閉じる。
カガミ、あったかいなぁ。
そのまま、署に着くなり医務室へ直行したのだが、翌日すでに署内中で話題になっていたのは言うまでもない。

そんな事もあったなぁ。
いつもの近道で公園を突っ切りながら思う。木々はほとんど葉を落とし数年前と同じ灰色の風景。
違うのは、前方を行く暖かい背中が無い事だ。

「だからさ、出てくるのを待っていたいんだ」
「代わりの担当が付いてるでしょう、俺を待たずとも」
「そうじゃなくてさ。しんどいとき支えてもらったし、こっちからも支えたいなって。ま、もっとも抱っこ、なんてのは無理だけどね〜」
間を隔てるアクリル板よりも、さらに硬質な顔に笑いかける。
冬至カボチャ差し入れといたから、気が向いたら食べてよ。じゃ、また」そう言って、面会室の席を立った。

今日は陰が最も極まる日、転じて太陽が再び輝きを取り戻して行く始まりの日。今は冷えきった背中でも、お日様の様な力強いあたたかさが、いつか、きっと戻るだろう。