zencro’s diary

乱歩奇譚SS

「あ、こんにちはカガミさん」
「ああ、コバヤシ君。新しい学校はどうだい?」
「休みなく通ってますよー、最近退屈してきましたけど」
「‪通っていたって、授業は所々エスケープしてるじゃないか。お前は不登校許可なんてもらってないんだから、このままだと留年だぞ」
「大丈夫だよハシバ君、君の家庭教師に教わった方法で出席簿の改ざんできるから」
「おい、いつの間にそんな事!…家庭教師クビにした方がいいかな」
「彼が出席簿への侵入方法そのものを教えたわけじゃないから、大目に見てあげてよ。教えてもらったハッキング技術をぼくが応用しただけだからさ」
「そのうち痛い目見るぞ」
「そんなに心配しないでよ」

「…カガミ、お前は最近どうだ?」
「うん?何がだい、アケチ君」
「いや…別に」
「おかしな奴だな。では、私はこれで失礼するよ」
「ああ」

「カガミさん、元気そうでよかったですね」
「元気、か」
「カガミさん、エリート警視だっただけあって、法手続きにも詳しいし、うちの外部調査員として結構重宝されてるんですよ。もうすっかり立ち直っているように見えます」
「お前のとこも、元犯罪者を雇うとか度胸いいな」
「財閥は出所者の更生にも力を入れてますからね。カガミさんの他にも大勢雇用・派遣していますし。もちろん、厳正な審査・綿密な指導計画の下にですが」
「乗っ取られんと良いがな」

「ただいま」
出所以来、住み続けている2LDKの一室。静まりかえった奥の六畳間に向かいカガミは言葉をかけた。
「今日は、アケチ君のところに出向きました」
カガミは窓際に置かれた黒檀の箱に手を触れた。
(((ヴゥゥン)))
箱が鈍い音とともに震える。
「おかえり」
「相変わらずですね。あそこは時間の流れを感じません」
「子どもばかりなのに、妙ですよね」
「…今日は調子が良さそうですね」
部屋の空気へ振動が伝わったかのように、視界が揺れる。
「移植が、うまくいってよかったです」
箱の上に座るようにして、生前と寸分変わらぬ姿でナカムラが笑っていた。
「もう、どこにも行かないでくださいね」
カガミは黒い箱に頭を押し付け、まぶたをとじた。ナカムラのひざをまくらに眠るような姿で。
ナカムラの猫背姿がゆらめく。ナカムラの手が、カガミの頭を撫でているように見えた。