zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

ポインセチア

「やー、思ったより手間取ったね」
「すみません、俺が要領を得ないばかりに」
「いやぁ、こういう事は窓口の人との相性もあるからなー。波長が合わないとさ、まーなかなかまとまらないもんだよ」
区役所での用事を終え、ふたりが外へ出ると透きとおった空の良い天気だった。
「このあとは特に急ぎの用もないし、ちょっと散歩がてら公園通って帰ろうか」

「カガミ?」
うしろの規則正しい足音が止んだ事に気付いて、ナカムラは振り向いた。「どったの」
「ナカムラさん、あの花屋まだ営業してますね」カガミが三叉路の小さな生花店を指さした。ビルの間にちんまりと、二階建ての家があった。1階部分で花屋を経営しているようだ。
「…ほんとだ。久しぶりだなー」何で気付かなかったんだろう、今まで、この辺りは何度も行き来していたのに。カガミと走り回っていた当時も、あの花屋は今と同じようにひっそりと、肩身せまそうに佇んでいた。そう、子どものころ読んだ「ちいさいおうち」、そんな感じだ。
「ずうっと前、あそこで笹買ったなーそういえば」
「あの時は長引いていた仕事がひと段落して、一緒の帰り道でしたね」
「ふたりで飾りつけして七夕まつりと称してビールやら酒やら、ふふ」
「俺、あの時、完成した笹飾りスマホで写真撮ったのに消えてしまってて」
「あー」…まあ、そうなる事もあるんだよな。「ぶきっちょなおれたちが拵えたにしちゃ、なかなか綺麗にできてたよねえ。きみさ、帰るときこのあと処分するなら持って帰りたい、なんて言ってたよねえ」
「はい、トキコに見せてやりたくて」
「カガミ、ちょっとさ、寄ってこうか花屋」

店の前も店内も、赤い花でいっぱいだった。
「ああ、ハロウィン終わればお次はクリスマス。クリスマスと言えば、ポインセチア、だよねー」ナカムラはしゃがんで鉢植えのひとつを覗き込む。
カガミもその横にしゃがみ込む。「もうクリスマス商戦が始まっているんですか。ポインセチアって、よく見ると花びらと言うより葉っぱみたいですね」
花はその真ん中のとこで、赤いのは苞といいます、と店員が教える。
「どれがいい?」熱心に見入るカガミにナカムラが訊いた。
「え、でも」
「たまには季節もの買うのも良いかなって。今年、七夕は逃しちゃったけどさ。ほら」
「では、これを」カガミはひときわ深く赤いひと鉢を選んだ。

「あ、あったぁー」鉢を入れた袋を提げて公園を歩くさなか、ナカムラが携帯を覗いて素っ頓狂な声を上げた。
「ナカムラさん、歩きスマホは」危ないですよ、と言いかけたカガミにナカムラは画面を突き出す。「ほらっ、これこれこれ」
「あ」
あの七夕飾りの画像が映し出されていた。
「へへ、みっけちゃった。カガミに写メ送ってもらってたんだよねぇ、そういや」
「…懐かしいです」
「あ、泣いてる?まーた泣いちゃってる?ホントよく泣くなぁカガミはー」
「な、泣いてません!」
「まま、ちょっと休もう。よっこいしょっと」かたわらのベンチに腰を下ろし、横をぱたぱた叩いてカガミも座るよう促すと、ナカムラは名刺ぐらいの大きさの紙片を差し出した。
「さっきお店で花言葉のカードもくれたんだよね、それでさ」カードには、クリスマスの花らしい「聖夜」を始めいくつかの単語が並ぶ。「まぁ、照れくさいってのもあったし、ずいぶんタイミングずれたし、もうほんと今更だし…」
何やらごにょごにょと言い出すも、どんどん地面の方に俯いて声が小さくなっていくナカムラだったが、急に猫背を起こし正面からカガミを見た。
「カガミ、おれと結婚してください!」
唖然とするカガミに、あわてて言い繕う。「いやさ、おれ、カガミに言われるばっかりで、おれの方からはろくに意思表示してないなってさ、えっと」
カガミは思わず吹き出した。
「…さっき、届を出してきたところなのに」
「そ、そーだよねぇ、いまさらおかしいよなーやっぱし」
「いえ」
カガミは2人の間に置かれた鉢を見る。そして、ポインセチアと同じ色に染まったナカムラの耳元に囁いた。

「はい、結婚します」


ポインセチアの花ことば
「聖夜」「祝福する」「私の心は燃えている」など。
プロポーズにもおすすめです。


これは2017年のカガナカカレンダー7月用に書いた短文の、後日譚です。
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