zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

欠片

パリーン
陶器の割れる音がして、ナカムラがぞの場にしゃがみ込む。「あーーーやっちゃったああああ」見れば彼の足元には白い「C」のかたちのかけらが転がっている。「このカップ気に入ってたのにな、あーあ」持ち手が取れてしまったマグカップを拾い、散乱した欠片を拾い始める。「あ、あぶないよカガミ。おれが拾うからさ、わるいけどソージキ持ってきてくれる?」と、さっき開封したばかりの小包に使われていた袋に、破片を拾っては入れていく。「は、はい」カガミが玄関の物入に置いてあるコンパクトな掃除機を取りに行こうと後ろを向いた瞬間、「あっつ」と小さく叫ぶ声が聞こえた。「どうしました」と手元を見ると、ナカムラの薬指にぷっくりと血の玉が膨らんでいる。
「油断したなあ、破片には気をつけてたんだけどさ、持ち手の付け根が結構とがってたみたいなんだー。あ、いーよいーよ、舐めてばんそーこー巻いちゃえば」と口に入れようとした指を、カガミはひょいと捉えてぺろっと舐めた。(ひゃっ)と言うようにナカムラの目が見開いて、カガミに握られたナカムラの指が一瞬こわばる。血の塩分がカガミの舌を刺激した。「えー?ちょっとカガミやめなって」「なぜです?」「い、いやーなぜって、汚いよ、落ちたもの拾ってまだ洗ってないのに」「かまいません」「えええ?あ、それにさ、指の傷を早く消毒したいしさ、」「俺が舐めて消毒します」そのままナカムラの指を含み口を閉じた。以前、彼の手のひらをなめた事はあったけれど、あの時の汗の味よりも、鉄の濃い風味を感じる。
カガミの唾液に濡れた桃色の舌がちろちろとのぞき、ナカムラは息を呑む。目を閉じて一心にナカムラの薬指を舐めるカガミの顔は何とも綺麗で、舐められているナカムラの方がカガミを穢しているような感覚に囚われた。「…なんでそんなに丁寧になめるの」ナカムラは声が上ずっているのを感じながら尋ねる。なんだか、呼吸がうまくできない気がして、意識して息を吸って、はいて、と繰り返す。「ナカムラさんの指を、綺麗にしなくちゃ」とりつかれたように、カガミは舐め続けた。指を舐められているだけなのに、ナカムラは体から力が抜けていく。「ね、やめようよカガミ」ほとんど声にならないかすれた吐息でナカムラは訴えた。「頼むよ…」泣くような呟きに、ハッとしてカガミは指を口中から解放してナカムラの顔を見た。カガミと目を合わさずそむけたその顔は、首筋から耳まで赤く染めて何かを堪えるようにふるえている。
「すみません、ナカムラさん」カガミはひとまわり小さくなったような体に腕を回し、あやすようにその背を撫ぜた。「…新しいマグカップ、買いに行きましょう」
腕の中の頭が、かすかに頷いた。