zencro’s diary

乱歩奇譚SS

なぜ

ナカムラさんは尋ねないのか。

俺が僅か一週間で15人も殺害したのは、誰かの手助けがあったのではないかと。他の模倣犯らとの接触は無かったのかと。

きのうの面会でナカムラさんは、二十面相装束の出所について聞いてきたが、それもアケチ君から言われての事だった。マスクについては俺の方から言い出さなければ思いつきもしなかったかもしれない。

なぜナカムラさんは二十面相が出現した時俺を疑わなかったのか。

俺たちがやっと捉えた犯罪者が監視のゆるい措置入院となり、脱走し、殺人予告を警察に送り、俺の、トキコを、手足をもぎ、受賞したドレスをわざわざ着せ、吊るし、晒して、俺は間に合わなくて、ケーキまで買っておいて、地取りなどしていなければ、間に合ったかもしれないのに、遅くならなければ、ナカムラさんの連絡を受けた時、もっと家に近かったら、トキコと一緒にいたら、アレの手がトキコに届く前に俺が盾になっていたら、トキコは今も笑って俺のそばにいたかもしれないのに、俺がアレを取り押さえた時射殺していたら、ナカムラさんに止められなければあの時撃ってしまっていれば、、いや。もう今更無駄だというのに何度己に言い聞かせれば気が済むんだ。

そう、動機を持った直後に事件は次々起こったのに、動機のある人間がすぐ隣にいたのに、なぜナカムラさんは。

トキコを奪われて以来ずっと気づかわしげな表情で、俺に寄り添い、肩に手をかけ、話しかけて。それでも俺を疑おうとはしなかった。

彼は決して愚かな人ではない、断じて無能ではない。この俺を今まで教え導いてくれたのは他でもない、ナカムラさんなのだ。なのに。

「何でこんなことしたんすか、カガミ警視?」

「何で」と。今更…いまさら。

 そして収監中の今、ナカムラさんはしょっちゅう面会に来る。なぜいつも、自分の方が罪人であるかのようにうなだれているのだろう。背を向けたのは俺なのに。

 

「おまえの事だからさ」

「私の事?」

「おまえの事だけには盲目になる。おまえの事を、徹頭徹尾信じているんだよ、今でも」

初めて面会に来たアケチ君はそう言った。

「あいつはそんなだからさ。まだ言ってない事があるんだろう?もう全部、おまえの方から言ってやれ。もうすぐ四十になろうというおっさんがみっともなくて見ておれんから、言いに来た。まったく、金輪際おまえと顔を合わす気など無かったのにな」

 

なぜ、ナカムラさんは信じ続ける事ができるんだろう。