zencro’s diary

乱歩奇譚SS

南瓜

「ハロウィンねぇ。わたしの子ども時代にそんなお祭りなかったけど、カガミくん、やってた?お菓子かイタズラか!ってさ」
「いえ、私は全く。流行りだしたのはここ数年ですよね。そういえばトキコは友達と街へ繰り出すようになりましたね。学校でも仮装パーティをやるとか」
「妹さん服飾関係だもんね。衣装自前でやるんだろうねえ、さすがだなあ…お、いいあんばいに蒸しあがったよ〜、さ、吞も吞もー」
台所から持ってきたナベをあちちと言いながらちゃぶ台の鍋敷きの上に置く。ふたを開ければ、ふわっと立つ湯気とともに、ほのかに甘い匂いがひろがった。
「…ナカムラさん、また蒸かしたカボチャですか」
「あれ、きみキライだった?」
「いえ、むしろ好きな方ですけど、10月になって三日とおかず蒸かしてますよね。それに酒はあまり合わないのでは…お茶の方が良くないですか」
「んー去年さ、ハロウィンであまったカボチャ蒸かしたのつまみながら酒呑んだら美味かったなーと思ってさ、秋ってイモとかカボチャとか、ホクホクしたの食べたくなるし」
「…ナカムラさん、おぼえてないんですか」
「なにを?」
「…いや、まぁ…。ああ、おいしそうですね」
「でしょ?んじゃっ、いっただっきまーす」
ぱんっと両手を合わせて、ナカムラはひとつ頬張った。
「あっふい!!!ふぁはみ、ひをふへへ、はほほー、」
蒸かしたての大きいカボチャのかたまりを口に入れたナカムラは、まともにしゃべることができないようだ。かといって吐き出そうともせず、口を「ほ」のかたちに開けてはすぼめを繰り返し、てのひらをパタパタあおいで少しでも口の中を冷まそうとしているらしい。
「ナカムラさん、だっ、大丈夫ですか?」
あわてたカガミは、しかしどうしてよいやらわからずおろおろするばかり。
「ほふほへ、はいほーふほいほふ、むぐっ」
「えっ」
のど元を過ぎようとしたら今度はのどで詰まったらしく、胸をどんどん叩いて目を白黒させていたナカムラは、やがて
「んがくく」
と意味不明の言葉を発して、動きを止めた。
動転していたカガミはハッと我にかえり、いつの間にやら持っていた湯呑み一杯の水を手渡して、ナカムラの背中をさすりはじめる。
ごっくんと喉を鳴らして水を飲み込んだナカムラは、ようやく落ち着いたようで「ぷはぁ」と息をついた。
「ごめんねえ、カガミくん、お水ありがと」
「びっくりしました…気をつけてくださいよ、ナカムラさん」
「うん。ひゃー、舌やけどしちゃったかなー」
窓ガラスに映った自分の顔を見て、あかんべえするようにベロを出す。
「カガミくんちょっと見てみて、赤くなってない?」
子どものような仕草のまま振り向いた顔に、カガミはどぎまぎしつつも出された舌を検分する。
ペロッ
(ひゃっ、) 不意に、首すじに柔らかな湿り気を感じて、カガミは身をすくめた。
肩口を見下ろすと、上目づかいのナカムラが噴き出しそうな顔でカガミを見ている。
「…おぼえていたんですね」

返事の代わりに、かぷ、とナカムラはカガミの首を柔らかく噛んだ。



これは2017年のカガナカカレンダー10月用に書いた短文の、後日譚です。
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