zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

9月9日

このところ涼しくなったと思ったのに、今日はまた陽射しがきつい一日だった。
やれやれと思いながら古びた冷蔵庫を何となく開けて、缶ビールとキュウリを取り出しいったん閉めたが「あれ?」と思いまた開く。
ああ、そういえばこんなん入れといたっけ。
買い置きのビールや佃煮の瓶詰めに隠れた奥にヒッソリと眠っていた袋を、ナカムラは冷気を手首に感じつつ取り出した。
久し振りに作るか。ナカムラは、賞味期限を見ると冷蔵で今月いっぱいだったのでセーフ!とつぶやき、湯を沸かしながらビールの栓を開けた。

「ナカムラさん、こんなの見つけました!」
冬の日曜日の夕方、白い息を吐きながらカガミが部屋に訪れ、まあ寒いからと部屋に入れると、カバンから何か取り出した。
「干し菊?」
「そうなんですよナカムラさん。きょうトキコに付き合わされて行った食料品店にこれがあって。ナカムラさん、こないだ菊酒と菊のおひたしを振舞って下さったじゃないですか、あいにく今日は新月ですけど、また月が綺麗な夜にご一緒に菊酒を飲みたいなと思って」
宝物を見つけた犬ころみたいに目をキラキラさせて、干し菊の袋を得意そうに俺の鼻先に押し付けてきたっけ。
「は、はは、そうかー、干したのなんて売ってるんだねぇ。じゃ今度の満月にでも、お互い早めに帰れたら一緒に菊酒としゃれこもうか」
なんだかこっちまでウキウキしながら、袋を冷蔵庫に仕舞い込んだんだったなぁ。
でもその後はずっと忙しくて、遂に機会が訪れなかったんだ。そして、あの事件が起きて。

「折角だから月見酒しよっと」ふと冷蔵庫にマグネットで留めたカレンダーに目が行った。
「…そっか、今日は」
ちょうど、一年前のあの日だった。


あの時と同じようにお浸しをこしらえ、杯に菊の花びらをひとつふたつ浮かべる。
「よいしょ…っと」あの日と同じように窓辺にあぐらをかいて座り、宵の空を見上げる。久々に雨知らずのからりと晴れた一日だったせいか、窓から覗く月は煌々と、強い光を放ち始めていた。
「…この菊は使っちゃったけど、新しいの見つけて買っとくからさ」
暗さを増した独りきりの六畳間で、かたわらで酔い潰れたカガミの寝姿を思い出しながら、ナカムラは呟く。

「また、一緒に月見しながら菊酒を吞もうなぁ」



これは2017年のカガナカカレンダー9月用に書いた短文の、後日譚です。
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