zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

夏の花

「あ、茜」
「え」
「ほら、あんなに咲いてる。もう秋かあ」
「茜って、茜色ではないんですか」
「それって根っこの話らしいよ。花はずいぶん控えめだよね」
「可愛い花ですね」
「うん」
「ナカムラさんは野草に詳しいんですね」
「いやーべつに」
「でも」
「茜って名前の子がいてさ、同級生でね」
「ええ」
「その子が帰り道で『あれ、茜っていうんだよ』って教えてくれたんだよね。それで憶えたんだ」
「女性は花の名前をもらう事が多いですね」
「紫苑とか、男でも花の名をつける事はあるけどね、やっぱ女の子の方が多いよね」
「可愛いですよね。トキコも、花の名前を持つ友達を羨ましがってました」
「さくら、すみれ、かりん、もも、いいよねえ。そういえば子どもの本で『モモちゃんとアカネちゃん』てのがあったっけ」
「そう、それです。小学生の時のトキコの愛読書で、モモちゃんいいなあ、アカネちゃんかわいいなあ、って」
「たんぽぽちゃん」
「えっ」
「あと、ばらちゃんとか菊ちゃんとかもいるのかなあ?」
「いえ、ちょっと…珍しいですよね」
はまなすちゃん、あさがおちゃん、つつじちゃん…うーん」
「ナカムラさん?」
ナカムラは自分の知る限りの花の名を思いつくままにブツブツ呟きつづけていた。
「…ひまわりちゃん」
「は?」
「そうだ、ひまわり!カガミちゃんは『ひまわりちゃん』がいいね」
「わたし、ですか!?いや私は別に」
「己が正しいと思うもの、太陽をずっと目で追い続け、灼けつく正義の熱線に炙られながらもすっくと大地に根を下ろして立つ、せいたかのっぽの大輪の花、うんうんいいねえ。そういえば日に透かすと髪の色も何となくひまわりっぽいし」
「いや、そんな…」
「よし、次の聞き込み急いで、早く事件解決して祝杯あげよ、ひまわりちゃん」
「いや、その呼び名はちょっと」
「まあまあ、カタいこと言わないでひまわりちゃん」

(…それなら、俺が追い続ける太陽は)

「ほらぁ、ひまわりちゃん、行っくよー」

後日。
ナカムラがところかまわずそう呼ぶので、しばらくのあいだ署内中から「ひまわりちゃん」と呼ばれるようになるカガミであった。