zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

朝の風景


ナカムラさんの朝はそれなりに早い。だが寝起きは悪い。
ペタンコな布団で目覚めるといったん丸まり、2、3秒後「ううーん」という声を発してぐいーんと手足を伸ばす。そのままうつぶせになってまた2、3秒後に「ふんっ」と言って体を布団から引き剥がす。一気に起き上がるので2、3秒ほどヨタヨタして、ふらつきがようやくおさまると「ハァ〜ア〜」と気の抜けるような言葉を発し体のあちこちをボリボリかきながら洗面所へ。ガシガシバシャバシャ歯磨きやら洗顔やら寝癖直しやら終えてもまだボンヤリとしていて、物音がしないので様子をうかがうとトイレの便座に腰掛けてまた夢の中へ行きかけていることもある。
ナカムラさんおはようございます、と私が声をかけても聞こえてるのかどうだか、まだフニャフニャした顔をしている。ちゃぶ台に卵焼きと味噌汁とお新香と飯碗とホージ茶、または目玉焼きとトーストとサラダとヨーグルトとコーヒーを並べた辺りでやっと「あーカガミくんおはよー」と挨拶する。咀嚼すると頭がシャッキリするらしく、だんだん饒舌になってくる。
「カガミ、いつもきっちりしっかり朝ごはんつくってくれるし助かるなー。新聞までアイロンかけるとか、古風でマメだよねー」と言いながら、まだ温かい新聞に頬ずりしてニコニコする。「ナカムラさん、顔が黒くなりますよ?」「だってあったかくてインクの匂いがして気持ちいいんだぁ」「わかりました。明日から新聞にアイロンはかけません」「ええ〜」「せっかく顔洗ったのに、また洗わなくちゃならないじゃないですか」「おれ色黒いしヒゲもあるし目立たないから平気だって」「ダメです。また女子署員に薄汚いと陰口叩かれますよ」「ひーん」そんな他愛ないことを言っているうちに朝食を終えて、バタバタと上着をはおりカバンを肩にかけていつものスニーカーにつま先を突っ込み「じゃー行ってくるよー」と言う。「ナカムラさん、折りたたみ傘。降りそうですから」「ありがとーやだなぁまた靴ぐずぐずになっちゃうなー」「ですからせめて防水のウォーキングシューズにすれば」「あああ、遅れちゃうから行くねえ〜」「ナカムラさん、ハイ」私はナカムラさんに近寄る。「ええーやっぱするの?なんかこーゆーのって苦手なんだよなー」「これくらいはしましょう。大丈夫、じき慣れます」私が譲りそうもないのを見てとると、ナカムラさんは「ううー、わーった。いくよー?」一瞬の後バッと顔を引きはなし、「じゃっ!」くるっと回れ右して一目散に駆け出した。「照れくさいなら唇でなくほっぺでいいですよ、って言おうかなぁ」とその背を見ながら私は検討し始めていた。入籍から1ヶ月ほど経ったナカムラ家の朝は、こんな具合である。