zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

8月9日


夏の終わり、極刑を免れ刑期を終えたカガミを、ナカムラは当然のように自分の家に迎え入れた。
ぎこちないながらも共同生活が続く。

散り積もった銀杏の黄色い葉を踏んで二人が歩く。
「ナカムラさん、どうして俺をナカムラさんの家に入れてくれたんですか」
「そりゃ、カガミと一緒に居たいからだな」

雪がちらつく早朝にカガミがたずねる。
「でも俺は、ナカムラさんの教えてくれた事、みんな踏みにじってきたのに」
「お前はそうしない訳にいかなかったんだろ。自分をごまかすことができないからな、カガミは」

舞い散り続ける桜の並木でカガミは立ち止まる。
「だけど、俺のせいであなた自身だいぶん不利益を被った筈です」
「カガミはおれの大事な後輩だからなぁ。先輩が後輩の面倒ごとを引き受けるのは当たり前だろ」ナカムラはふふんと無精ひげの顎をそらす。

(俺は、あなたの好意にどう報いれば良いんだろう)

強い雨で夏の暑さも急激に冷えた夜、急ぎ足の猫背に呼びかける。「ナカムラさん、」
続く言葉は、だが声に出ない。
ナカムラはだまりこんでうつむくカガミを振り返る。そして、地から生えた棒きれのように立ち尽くす彼に歩み寄り、その背に手を回して少し力をこめた。
「…こうして、抱きしめるじゃん?」ナカムラは囁く。
「そしたら何でか、おれのほうが抱きしめられてるみたいに感じるんだよね」
ちょっと笑って、すっかり以前の髪の長さにもどったカガミの頭に手を伸ばす。
「で、こうやって撫でてもさ、おれが撫でられてる気がするんだ」
そしてパッとカガミから離れ、両手を上に挙げて、照れくさそうに笑った。
「カガミが出て行きたいっていうなら止めらんないけど、たまにこうできたら、いいなあ、なんて」
カガミは相変わらず立ち尽くす。いつか、彼を抱きしめ返せる日が来るものだろうかと絶望的な思いを抱きつつ、雨に冷えたその身は温かかった。



今日ラジオで聴いた「抱きしめてるのは俺だが/sion」に触発されて書いた。ハグの日だし