zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

kawaii(乱歩奇譚ワンクリお題「寝起き姿」)


「そういえばふたりで探偵事務所に来るの珍しいですよね?…あれっ留守かな。上がって待ってましょうか」
ナカムラは慣れた様子で合鍵を使い、刑事二人は部屋に上がりこんだ。
「あー、なんだぁ探偵さん寝てるよ。へぇ、宮付きだの天才少年探偵だの言っても、寝顔は無防備で可愛いもんだ。ホラ、警視もそう思うでしょ」
「そうですか、私はあまり男子高校生を見て『可愛い』と感じた事は無いですが」
「あー、警視くらい若いとそうかもねえ。わたしみたいにいいかげん若さや瑞々しさが毛ほども無くなっちゃいますとね、探偵さんくらいの年頃の子なんかもうね、可愛いというか眩しいというか~」
「いや、それよりこの年頃の頃は『可愛い』なんて言われると何もできない子ども扱いをされてる気がして、無性に反発を覚えたような…」
「そりゃまぁ、警視と探偵さんの方が歳近いですしね、わたしみたいなくたびれ果てて輝かしい未来もないようなおっさんとはもう感覚が異次元みたいなもんでしょうからねえ…」
「あ、いや、私はそんなつもりは微塵も」
「はは、冗談ですよジョーダン。警視が可愛いと思うのは妹のトキコさんだけだもんね」
「かっ、からかわないでくださいナカムラさん」
と、眼下のふわふわしたクセ毛頭が蠢き、紅い眼球がうすく開かれたまぶたの間から煌めく。
「…おっと、起こしちゃったかな」
「お前ら、寝てる人間の頭上でなにいちゃついてるんだ」
「い…なっ、何を言ってるんだアケチ君」
「あ〜ゴメンねえ、わたしはすぐ退散するからさ。あとは警視と打ち合わせすすめてね」いくつかの伝達を終えてナカムラがそそくさと探偵事務所を辞去すると、探偵は口を開いた。
「お前、妹以外可愛いと思ったことないのか」
「? 何の事だアケチ君」
「俺みたいな男子高校生は可愛くないんだろ」
「きみは実はずっと起きて聞いていたのか?だいたい、赤ん坊でもない男子に可愛い可愛くないと言う形容を使うのは適当じゃないだろう」
「そうか?」ソファからむくりと身を起こし、探偵はカガミのネクタイを掴んでグイと引っぱる。ふわりとした感触が唇をかすめて、カガミは一瞬硬直したのちネクタイを握る探偵の手を振り払うと同時に、引きつった声で呻いた。「なっ、何を…」
「お前もわりと赤ん坊のようなものだがな」探偵は唇の両端を吊り上げて笑う。

「只今、戻りました…」
署に戻ると、いつものように昼食後の昼寝をしていたナカムラが突っ伏していた頭を持ち上げた。「お、おっ疲れさまぁ。おやぁ、なんか随分と消耗してません?」
「はぁ…。あれ?ナカムラさん、右の頬になんか付いてますよ?」
「ん?…あ!昼飯買ったコンビニのレシートですな~、いや~カッコ悪いですなぁ、ははは~」
いっそう脱力してカガミは言った。
「はぁ…。ナカムラさんの寝起き姿の方が、よほど、いや万倍も、可愛いですよ…」
「へ?」
顔全面に疑問符を貼り付けたような面持ちのナカムラを見ながら、ふたたび深々と溜息をつくカガミだった。

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