zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

立春


みぞれ混じりの中、彼らの墓の前に辿り着く。来ても別に何するわけでもなく、花を置き傘の柄を首と肩でおさえながらハイライトを取り出して一本口にくわえ、ライタで火を点ける。二口ほど吸うと、薄暗い灰色の景色の中で赤い色が点滅する。線香替わりのようにそれを墓石の前に置きしばらく燻る煙を眺めた。以前ここには彼女が両親たちと眠っていたが、程なくして彼も入った。昔は兄妹二人で墓参りに来てたんだろうなと思いながら、彼らの行動をなぞるように手を合わせる。

探偵さんの事務所に行くと、いつものコンビが出迎えた。「お帰りなさいナカムラさん、どこ行ってたんですー?」「結構濡れてしまってますね、このタオル使ってください」
いや、お帰りって別にここ自分ちじゃないし~と苦笑しながらタオルの礼を言い、「靴脱げよ」の号令を聞きへぇへぇと湿った靴を脱ぎ揃え中に入る。
「ひゃあーまだまだ冷えるよねえ」「どこ行ってた」「いや別にちょっと出歩いてただけですよ」「あれっ?ナカムラさんお線香のにおいしますよ?」「へ?あぁ、タバコの臭いじゃないかなー」「そおかなあ、タバコの臭いってもっと煙ったくなかったですか?僕の父、ちょっと吸い過ぎでいっつも母に怒られてて、近寄るともうもうとした煙の幻が見える程で、側によると咳込むくらいですよ?」まったく嗅覚の繊細な子だねえ。他の墓で焚いてる線香のにおいが残っちゃってたかな。「禁煙してたんじゃなかったのか」「そうなんだよねぇ、つい最近また吸い始めちゃったんだよねーまあ、未成年の君らの前ではふかしませんよー」「またあの霊園に行ったのか」...あーあもう、ホントこの子らには隠し事できないよね。
「いや、まあねえ。習慣付いちゃったかなあ」「今度からは俺にも声をかけろ」「へえ?探偵さんも?」「周辺の様子を確認する。あいつのこと未だに奉ってる残党がうろついているかもしれないしな」「あぁ~なるほどねぇ~。うん、じゃあ明日晴れたら一緒にお墓参り行こっか?」「墓参りじゃない」「え、僕も行きたいです!いいでしょ、センパイ、ナカムラさん?」「おいコバヤシ、ちょっと遠慮しろよ」「あは、いいよー。じゃ、みんなで行こっか」

雨が上がったら、また行くよ。明日は、ふかすわけにゃいかないから、箱だけで我慢してくれな。