zencro’s diary

乱歩奇譚SS

愛してる/愛してない


「ナカムラさん、私を愛してますか?」

「なんだよ急に」
「私は、ナカムラさんを愛しています」
「……ありがと」
「いや、お礼ではなく」
「今後ともよろしく」
「あいさつでもありません!」
「なんだってのよ」
「ナカムラさんからも、愛してると言ってほしいんです。だって、まだ一度も言ってくれてませんよね?」
「えぇー今さら、何をそんなに改まって言わなきゃならないのさ-」
「そうは言っても、私としては不安になります!」
「だって、現におれたち付き合ってるだろ?」
「はい」
「妹さんが海外研修で居ない時は、こうしてメシ作りに来てやってるだろ?」
「ええ、おかげで毎日ご飯がおいしいです!……ではなく」
ならいいじゃん、これからもよろしく頼むよ、カガミちゃん~」
「はい、よろこんで!……って、ナカムラさんはぐらかさないでください!」
カガミは真正面からナカムラの顔を見据える。
「愛しているなら愛していると言ってください!」
「……だってさぁ、なぁんかほんとうの気持ちからくる言葉じゃないみたいで、ヤなんだなあ」
そう言うとカガミは傷ついたようで、ナカムラは一寸胸がチクリとする。
「そんな、自分の中でこなれていない言葉使うのはさぁ。なあんか空々しいし嘘くさい感じでさー。なあんか違う、って感じなんだよねえ」
「嘘くさい?なぜです、私の事が嫌いですか?」
「お前さー、ここんとこ最近、そう言えばおれが撤回すると思ってるだろ?……もぉぜったい言わないからな」
「……わかりました。では」
意を決したようにカガミが言ったかと思うと、ナカムラは突然台所の壁に押し付けられた。
「え、ちょ、」
「失礼します、ナカムラさん」
ナカムラの顔に、驚愕に代わって恐怖の表情が浮かぶ。
同時に、カガミの指がするりとシャツの下に滑り込んで来るのを感じて、ナカムラはびくりと軀を震わせた。
「あ……やだっ、カガミッ」
「ナカムラさん、私のことを愛してますか?」
「う、うん」
「ううん、ですか、うん、ですか!?」
「うん……」
「では、愛していると、言ってください」
耳もとに唇を寄せて、カガミは囁くように要請する。
「いい加減にしろよ、このバカ……!」
「馬鹿で結構、愛してると言ってもらえるならどんな罵倒も前戯のようなものです」
「ぜっ……、ほんとに……やめ、ろ」
「言ってくれるまで、やめません」
「おい冗談……ひゃっ」
身をよじり逃れようとするも、易々と動きを封じられ、さらに追い込まれる。
「…はぁっ…カガ…んん…ッ」
「おれを愛してるって、言って下さい」
「そんなずる、いっ…あ、うあぁっ…やだ……もっ…」
「…ナカムラさん」
ナカムラはぶんぶん頭を横に振って拒否する。
「あいしてない」
「ナカムラさん」
「愛して、ない…っ」
追いつめられて目尻に涙を溜めながらも、ナカムラは否定し続けた。
「あいしてなんか…な…」
カガミはさらに指先を深く潜らせた。
「ホラ、もう限界でしょう?無理しないで……素直になって、ナカムラさん」
「あァ……ンンっ……う、う…



「ぶっひゃはははははははは!!やめ、やめやめやめて、ちょっ、あ、ひやははは!!はあははははあ、は、は、息できな、はひゃひゃひゃひゃ!!!!!」
息も絶え絶えに大爆笑するナカムラを、さらに追い打ちをかけてくすぐりまくるカガミ。
「ほら、愛してる、って!ナカムラさん笑ってばかりいないで、でないとくすぐるの止めませんからね!」
「無茶ゆーにゃ……ははははははは、ひー、も、だめ、しぬ、やめてぇ、ひゃははは、い、逝っちゃうよおお」

「……ただいまー、兄さん、ナカムラさんをちゃんとおもてなししてた?……って、何やってんの!?こらッ兄さん、ナカムラさんが笑い死にしちゃう、やめなさい、やめなさいってば!!!」

その後。
くすぐりまくられ精根尽き果てリビングのソファで休むナカムラは、ダイニングで妹にこっぴどく叱られるカガミを見やり、こっそり「愛してるよ」と言った……とか言わなかったとか。

(おわる)