zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

おやつ


「こんにちはセンパイ」「おじゃまします」
「またお前らか。今日は眠い、帰れ」
「ハシバ君がアップルパイ持ってきてくれたんですよ、みんなで食べましょう」
「人の話聞いてるか」
「だって、ハシバ君のお母さんのお手製ですよ?フィリングだって、財閥の経営する農場で採れたリンゴ使ってるんですって。おいしそうですよー。ハシバ君、ぼくおさらとナイフとフォーク並べるから、缶コーヒー4つもってきて」
「あ、ああ」とカウンター下の収納場所へ向かうハシバ。
「……4つ?」
「上がらせてもらってるよー探偵さん」
「お前もいたのか」
「ビルの入り口でナカムラさんに会ったんですよ、4人の方が切り分けやすいですし、良かったですね」
「だからオレは寝るところだって言っているだろ。ここはカフェじゃないんだ、帰れ」
「そんなこと言ってー。センパイのって、寝る寝るサギじゃないですか。どうせ眠れないんだから、諦めて食べちゃった方が良いですよ」
「相変わらず押しが強いねー、コバヤシ君」無精ひげを撫でながらナカムラが感嘆して言う。
「ったく……お前ら、靴は脱いだんだろうな?」アケチがめんどくさそうに起き上がった。
「おいハシバ、コーヒーはいいから湯を沸かせ」
「え、アケチさんコーヒー以外のもの飲むんですか?」
「アップルパイなら紅茶がいいだろ」
「ええっ、ここに紅茶の葉なんてあったんですか!?」
「ティーバッグだ。いやなら飲むな」
ナカムラは先ほどまでアケチが寝そべっていたソファに収まり、ニヤニヤしながら子ども達のやり取りを眺めていた。
「探偵さーん、わたしは生クリーム添えが好きなんd」「黙れ」

「ナカムラさんって、見かけによらず甘いもの好きですよね。お酒のおつまみ作るの上手いって聞いたことありますけど、もしかしてケーキとかも作れるんですか?」
「いやー、食べるのは好きだけど作るのはちょっとね。サテンでバイトしてたから甘いソフトドリンク系は作れるけど」
「極度の猫背でよく勤められたな」カップに湯を注ぎながらアケチが憎まれ口をたたく。
「やっだなあ、わたしだって探偵さんくらいの歳の頃は背筋もまっすぐだったのよー?」
「でもぼく、ナカムラさんが姿勢正しいとこ見た事無いです。いつそんな姿になり果てたんですか?」
「おい失礼だぞコバヤシ」
「あはは、いいよいいよ。うーん、そうだなあ、取り調べの時の姿勢が体に染みついちゃったかなあ」
「あー、机に肘ついて前のめりになってる姿から、机と椅子取り払うといつものナカムラさんの立ち姿になりますねえ、なるほど腑に落ちました」
「お、おれも……」コバヤシの返答に思わずつられるハシバ。
「おい、できたぞ。ナカムラ、する事無いんならパイを切れ」
「あ、僕がやります。母がケーキ作るときは僕がカットする役目でしたから」

「わ、美味しいよハシバ君。お母さん、すごいね」
「へえー、りんごの甘さと酸味が丁度いいねえ、うまいうまい」
「よかったです、母も喜びます」照れながらも頬が少し上気して嬉しそうなハシバ。
「ハシバ君も、ケーキ作れるんだよね」
「ほう」
「甘いものが好きなら、自分で満足いくものを作れるようになれ、と言われて」
「なるほど、自分で料理できれば敵に毒殺される気遣いもないしな、ハシバ財閥御曹司の自衛の一つか」
「どっ、毒殺……」と、今度は青ざめるハシバ。
「ハハハ、いやーそりゃ純粋に坊ちゃんがずっと好きなものを食べられるようにって母心でしょー。いいお母さんだよねぇ」
「坊ちゃんはもうよして下さいよ……でも、ありがとうございます」

「あれ?ハシバ君、一切れ余ってるよ、どうして?」
「ああそうだ、ナカムラさん、これカガミさんに差し入れてもらえませんか。カガミさんも甘いもの好きみたいでしたし。収監されていると、甘党でなくても甘いものが無性に恋しくなるって聞きました。よければ、是非」
ハシバが手際よく包んだ最後の一切れを受け取り、ナカムラは顔をほころばせる。
「いやぁ、こりゃ有難いなあ。あいつ何かと差し入れとか辞退しがちだけど、これは必ず渡すよ。ありがとう、ハシバぼ……ハシバ君」

こりゃ絶対カガミに食わせないとなぁ。
また照れて赤くなる少年を前にして、ナカムラは思った。