読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

協力要請

(初出:privatter 2016-11-30)
「なんで睡眠薬と頭痛薬ひっきりなしに飲むの?体に良くないよー成長期なのに」
「何だいきなり」
「わざわざ海外から取り寄せてんでしょ。飲み方だってさ、いっつも噛み砕いちゃって、しかも缶コーヒーなんかで流しこんでー。飲み合わせとかさ、よくないんじゃない?」
「国内の薬は全く効かないからな。コレは機関直属の医師が処方したものだ、苦情は機関に言うんだな」
「まあ、お医者さんが指定した薬ならいいんだろうけどねえ、でも飲み方がねえー。カガミだってさ、以前心配してわたしにまで相談したりしてたんだよ」
「わざわざ俺の薬の飲み方をいさめに来たわけじゃないだろ、用があるならさっさと言え」

―これで、話す事は全てです。さあ、私を極刑に―

「…ね、あいつホントに全てを話したと思う?」
「さあな。お前はどう思うんだ」
「わたしゃね、あいつがあんなに手際よくやったってのがどうにも腑に落ちないんだよ。あいつってさ、勤勉だけどずいぶん不器用じゃない?」
「まあな、この事務所に来るときもよくあちこちの家具に足をぶつけたりけ躓いたりしてたしな」
「でっしょー!?G街歩いてる時もさ、すぐ絡まれて困ったりムキになったり、私がフォローすること結構あったんだよ。そんな奴がさ、予告までしてさ、相手に気取られずに近づいてあんなこった殺し方15件もやってのけたなんてねえ」
「だがな、あいつは時間かけてきっちり取り調べを受けたんだろ。あんたじゃあ手加減する可能性があるからって他の奴が担当したりしてたよな」
「さすが、よく知ってるねえ…まあ、仕方ないけどね。カガミと一緒に行動してた時間が長かったわたしは、疑いの目で見られてたくらいだし」
「それでもまだ疑う余地があるっていうのか」
「……んー、刑事のカン、ってやつ?」
「非論理的だな」
「そう言わないでさ、ちょっと考えてみてくれないかなあ。アケチ君だって3年もいっしょに仕事してたじゃない、あいつと。しかも事件の間だって15人殺害するまで見抜けなかったんでしょ?あららー、宮付き探偵の面目丸つぶれじゃないの」
「挑発してるつもりか?帰れ」
「それだけじゃないよぉ。アケチ君、原初二十面相の...ナミコシ君の行方が未だ分かってないでしょ?」
「だからなんだ」
「だからさ、現二十面相カガミに協力した勢力を探していれば、ナミコシ君の気配も漂ってくるかもしれないよ?ミナミ検死官も死んじゃって、今はカガミの自供にしか頼れない状態だけどさ、原初の一味が、カガミの犯行もナミコシ君の失踪にもかかわってたって線、わたしはどうしても捨てきれないんだよー協力してよ、探偵さん」

「ナカムラ、お前なんでいつも腹抱えてるんだ」
「……へ?何言ってんの唐突だなぁ、関係ないじゃない」
「言ったら協力してやる」
「んー弱ったなあーそれバラしちゃったら、わたしのミステリアスな魅力が半減しちゃわない?」
「何がミステリアスだ、胡散臭いの間違いだろ。だいたい警察の正式な依頼でもない事に協力させようって言うんだ、それくらい明かしたっておつりがくるくらいだぞ」
「わかったよ、べつに秘密ってわけでもないけどねー。前の職場でさ、発射されたガス筒が腹に当たって内臓破裂寸前になった事があったんだよ。それ以来腹かばう癖がついちゃって。そう、ただのクセだよクセ」
「以前お前は、上層部と議員の癒着を告発しようとして証拠不十分って事でうやむやにされていたろ。通常水平撃ちされることがないガス筒がお前の腹に当たったのはそれと無関係じゃ無いだろうな。しかもその事故前日には」
アケチはつかつかとナカムラに歩み寄り、こぶしをナカムラの腹にあてた。一瞬、ナカムラが息をのむ。
「すでに、相当ここに暴行を受けていただろ。事故はむしろその痕を隠すためだったんじゃないのか」
「……やっだなあ。どこで聞いたか知らないけど探偵さんもそんなウワサ?、鵜呑みにするんだねえ。んなこと無いですって」
へらへら笑って頭を振る。

「で、どう?」
「いいだろう、オレもあいつ自身がここへ来るまで気付かなかった訳だからな。協力してやる」
「助かるよー探偵さん。じゃ、よろしくねー」

ひらひら手を振り事務所の扉を閉じる。手すりに背を預け、取り出した一本に火を点け深く吸い込み、ゆっくりと吐き出した。闇の中で赤い光が明滅する。

「久しぶりだから、効くなぁ」

しばらく頭上の月を眺めた後、まだ長さが残る吸いさしを自販機前の灰皿に押し付けた。
おんぼろビルの照明は、だいぶ前から切れたまま。
響く自分の足音を聞きながら、ナカムラは真っ暗な階段を降りて行った。