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zencro’s diary

乱歩奇譚SS

去日

ナカムラ カガミ

どの位こうしていたんだろう。
六畳間に猫背で胡坐をかき、頭の奥でシーンという音を感じながらぼうっとしていたら、窓の外は夕焼けから夜空になってた。

どのくらい一緒に居たっけ。ほんの数年なんだよなあ。「ちゃん」、から初手柄で「くん」呼びになるのは早かったね。さらにキャリア組だから、あっという間に警視になって。


「ほんとはナカムラさんと一緒に住みたいんです」
 部屋に遊びに来ていたカガミがふとそう言った。
「でも、妹をひとりにさせる事なんて考えられない」
「ふふ、君はそう思っていてもさぁ、トキコさんもじきお嫁さんになって出てっちゃうんじゃない?」
「……あぁ、考えたこともなかったです」
「えっ、ほんと?そりゃあ、またずいぶんと」
「でも、考えてみたらそうですね。トキコはいつか学生から社会人になって、何処かの誰かと結婚するかもしれない。」
「そうだよー。海外でデザインの勉強を続けたくなるかもしれないし、友達と事業を始めるかもしれない。いつか、あの部屋から出て行ってしまうかもね。あー、でも君の事が心配でなかなかそうはできないかなあ。君、家事はからきしだもんな」
「私とトキコは、いつまでもずっと一緒に暮らすんだ、と思っていました……」
「あぁほらほら、たとえばの話なんだからさ、いちいち落ち込まないの。一緒に居ればいいじゃん。一緒に居て幸せなうちは、無理して別居することなんてないよ。君ら兄妹はおひな様みたいにお似合いな二人だよー」
「ですが、ナカムラさんとも一緒に住みたいんです」
「君はさ、家族がほしいんだね」ナカムラはカガミを見上げて目を細める。
「だいじょうぶ、焦らなくても、きっとカガミはにぎやかな良い家族を持てるよ」
「俺は、トキコとナカムラさん以外の家族なんて想像できません」
「いいねえ、楽しそうだねえ。でもさぁ、君は、まだ若いんだからさ。これから先、君はたくさんの人と出会うんだ。そう決めつけちゃ駄目だよ」


えらそうなこと言って、いいかげんなこと言って。これ以上ないってくらい、あいつひとりぼっちになっちゃったじゃないか。家族どころか、これじゃ、おれはまるで貧乏神だよ。
カガミちゃん、から始まって、カガミくん、になって、やがてカガミ警視、になって、そしてただの、カガミ。呼び名はどんどこ変わってったけど、どの呼び名の時も、好きだったよカガミ。

夜は更けて窓の外、漆黒の空にはほそくほそく、折れそうな月が引っかかってる。

家族になろう

そう言えてたら、どんなに良かっただろう。