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zencro’s diary

乱歩奇譚SS

針路1

コバヤシ

「ナカムラさん、刑事の仕事っておもしろいですか?」
「へ?」
いきなり顔の右横から問われて素っ頓狂な声が出た。
「ああなんだぁコバヤシ君かあ。なに急にどしたの?」
「学校で進路について考えて来いって言われてるんですよー。ぼく別に高校行きたいって思ってないし、このまま探偵事務所で助手やっていたいんですけど、アケチ先輩が高校行かなきゃ辞めさせるってー」
「へえー探偵さんもジョーシキあるじゃない、つっても不登校許可もらって名ばかり高校生のアケチ君から言われても説得力無いよねえ、あっそうだ、探偵さんと同じように入るだけ入って不登校しちゃえばいいじゃないの、許可もらってさぁ」
「おい、俺はこいつに不登校許可まで口利きしてやる気はないからな。見習い許可証融通してやっただけでも破格の待遇なんだぞ。それになナカムラ。いいのか、仮にも警視庁捜査一課の警部がそんなこと言ってて」
「あぁーははは、そーそー、高校は行っといた方がいいんじゃない?ハシバ君だって行くんでしょお?いいじゃん一緒に行っちゃいなよぉ、楽しそうじゃん」
「そりゃハシバ君はとっくに進路決まってますし僕もいっしょに行けたらいいかもって思いますけど、出席日数とか単位とか、そのためにわざわざ用意しなくちゃならないなんて、ひどく時間の無駄だと思いませんかー?僕今まで結構休んだり試験さぼっちゃったりしてましたから、高校行くとしたら今からあくせくして授業受けなきゃいけなくなるんですよ。」
「ふん、ずいぶん自信があるんだな。ハシバの志望校はかなり競争率激しいところじゃないか。今から猛勉強したって危ないんじゃないのか?」
「ええ、でもハシバ君、僕がその気なら自分の家庭教師つけてくれるって。十分間に合うって張り切ってますよ。だから大丈夫なんじゃないかなあ。」
「じゃあもう決まりじゃないの、高校行かなきゃ探偵の助手は続けられない、受験はハシバ君のサポートで安泰、行くしかないでしょ。なんでわたしに刑事の仕事がどうかなんて聞くの?」
「だってー、僕の探偵助手って身分なんてアケチ先輩の胸ひとつで消し飛んでしまうような不確かなものじゃないですか。それにナカムラさん見てると運動能力いまいちな僕にも刑事って勤まりそうな気もするし。そうだ、ぼく刑事になってナカムラさんと組みます!そしたら、連絡係としてこの事務所にも変わらず顔出し続けることができますよね?」
「いやいやー、コバヤシくーん、さすがにそれは刑事って仕事あまく見てないー?いちおう刑事になるのだってなかなか大変だし手間がかかるよー。いまどき中卒で警察官採用されるのも難しいなあ、高校や大学は出といた方がいいと思うよー?で、頭がいいなら第一種国家公務員試験うけてさ、カガミもそうだったなあ」
「おいお前ら、ここは進路相談室じゃないんだ。無駄話はもういい加減にして帰れ。」
「うーん……」
「はは、じゃあコバヤシ君一緒に出ようかぁ?送ってくよーほらほら」
「……はーい」

ばたん

「ふぅ」
「やっと静かになったか。あいつら全くここを何だと思ってるんだ。眠れやしない」
(あいつ、カガミの名前ふつうに出せるようになったな)

***

「ナカムラさん、ぼく警察官にはなりたいと思わないんです。だから刑事になるのはあきらめますね。」
「あっそー、さすが最近の子は切り替えが早いねえ。で、高校行くの?」
「今は行ってもいいかもって思うけど……多分同じところに通い続けるとじきに飽きると思います。だから、やっぱり行きません!」
あいかわらずひとを突き放すような清々しいほどの笑顔だなあ。あらら、ハシバ君も可哀想に。
「行った方がいいのにー。じゃ、どうする?」
「とりあえず、日本から出ます」
「へ?」
「どこにしようかなあ。どこがいいと思います?」
「いやいやいや」
もうこの子には驚かされてばっかりだね。
「いやぁ、俺はこの国から出たことないからねえ。……あのさ、なんで海外なの?」 
「わからない言葉話すところへ行って、ひとりになってみたいんです。日本語通じるところだと孤独になれませんから」
「はぁぁ、なるほど……?でも全然言葉が分からなくなってどうするの?」
「英語の単語をメモ帳に書いて、見せて何とかならないかなあ」
「ううーん……ならんと言うとこなんだろうけど、不思議と、君ならなんとかなっちゃうような気がしちゃうんだよねぇ。でもなあ、留学生として、って訳ではなさそうだけど……親御さんには相談した?」
「いいえ、相談しても困らせるだけだと思うんで黙ってます。最近は僕のこと諦めてるみたいで割と好きにさせてくれてるから、この事ももう後は保護者の許可が必要な部分だけになったら話そうかなーと思ってるんです」
「いやあ参ったねえーもうそこまで考えちゃってるの。だったらさあ、行先だって自分で考えちゃえば?」
「だって、自分で決めたら自然と無意識にぼくにとって有利なとこにしちゃいそうじゃないですかーそれじゃ、やっぱりつまらないですよ。かと言って、アケチさんはぜっっっっったいに助言なんてしてくれないだろうし、ハシバ君に聞けば財閥の影響力のあるところばかり勧めるだろうし、なので、ナカムラさんが決めてください!」
にっこり。天使のように悪魔のような笑顔だよねぇ、もう……やだよ、俺そんな責任を背負うのは。
「じゃあさぁ、地球儀くるくる回して、ついでに自分もくるくる回って、目をつぶってえい!と指さしたところに行くことにすればぁ?無作為で良いでしょ?」
「わぁ、それ面白そうですねぇ。僕やってみますね!ありがとうございますナカムラさん」と、またにっこり。
「ただし、」俺は言い継いだ。
「海の上指さしちゃったらアウト。それと、紛争地域以外の、日本国のパスポートで行けるとこ限定。そこ以外さしたら諦めるんだ、やり直しは無し。……いいね?」