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zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

あとかた 後日譚

「あの爆発には肝が冷えたな」

ナカムラが自室の冷蔵庫から発見され、直後に部屋が炎上した事件の数日後、二人は再び検分に焼け焦げた部屋に入った。

「あーあ、見る影もないねえ」

「やはりナカムラの死体は発見されなかったそうだな」

先日、ナカムラの体が転がり出た辺りを見下ろしながら彼は言った。

「まさか、あの状態から何処かへ移動したとは考えにくいが……奴の痕跡が何もない、というのも腑に落ちんな」

「いや、炎で焼けてあとは爆風で四散したんじゃないのか?こんな現場のあり様じゃ見つけるのは無理だろう」

「いや、」

と言いさして、かつての同僚は口をつぐむ。

おまえ、こんな茶番を打って、いったい何処へ逃げようというんだ。何をしようと企んでいるんだ?

あいつがカガミに望みをかけていたのは誰の目にも明らかだった。その入れ込みようは傍目に異様なほどで、だが周囲の人間は、それだけ後輩であり上司であるエリート警視に期待していたのだろう、位に考えていた。

しかし、彼にはナカムラの目が気になっていた。
猫背で頭を低くしながら上目遣いで相手の顔を見上げるその仕草は、別にカガミに対してのみ向けられていたわけではない。
だが、あの目の光は尋常ではなかった。無造作に垂れ下がった前髪の奥で、不釣り合いに大きな目が、カガミを見る時だけは。すがるような、試すような、崇めるような、蔑むような、誘うような、蹂躙するような。

「……やはり、あのまま遺体は焼失したんだろうか」
「?そりゃそうだろう、どうした、随分こだわってるようじゃないか」
「いや、別にどうという事ではないんだが」

確かにそこまで入れ込んでいる相手が犯罪者となり死刑執行されたら、それに自分の身内が全くいないとしたら、生き延びることにそこまで執着するだろうか?
もういい、と思うのではないか?

ならばやはり、これ以上あいつを探し続けるのは無駄だろう。
万が一逃げたとしても、あとは死に場所を探すくらいだろう。

「帰るか」
「ああ、戻って報告書まとめて終わりだな」

視界の隅に高熱でひしゃげた眼鏡のフレームのようなものがかすめる。
……あんなものは、あの日この部屋からは出てこなかったはずだが。
だが、

「もう、いいさ」

つぶやきに頭をかしげる相棒と共に、彼らはまだ若干熱のこもった部屋を去っていった。