zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

告白


カガミは一般人相手だと、どうも歯切れが悪くなるらしい。今日も、地取りでG街を回っている時に妙な絡まれ方をしてこちらに救いを求めるような顔を向けてきた。で、おれが間に入ってその場を収めたのだけど。
「ねえ、どうしてそう弱腰になるのさ?ささっと受け流しちまえばいいのにー」
カガミはへどもどして、目線をあっちにやったりこっちにやったりしてる。
「すみません、犯人以外にはどうにも強く出れなくて…」
「まあね、そりゃ正しい感覚だと思うけど、いちいち丁寧に相手してたら進まんでしょ。ほら、また絡まれないうちに早くいこいこ」
うなだれたカガミの背をどやしつけ、先を急ぐ。
そんで、そんなことがあった矢先。
とある店の裏口付近で店の主に話を聞いている間に、ちょっと離れた路地の奥でカガミがまた捕まったらしく、どうも様子がおかしい。絡まれてるっていうより、言い寄られている感じ?
「えっ、あの、ちょっとやめ」
一瞬、店主と顔見合わせてから奥の路地を覗くと、情けない顔して壁際に追いつめられてるカガミが居た。
(…これ、壁ドンかねえ?)
「はいはいはい、君、そういう事はきちんと同意の上でねー、ほら行った行った」
舌打ち残してそいつが行ってしまうと、地面にへたり込みそうなカガミが取り残されている。
「だいじょぶ?」
「は、ハイ……」
「ここいらで仕事すんならもっとシャンとしなきゃダメだよー。ほらぁ落ち込まない、落ち込まない。カガミちゃんホントは腕っぷしも強いし根性もあるんだからもっと自信もっていいのよ?」
ありゃあ、なんだか泣き出しそうになっちゃうしなーまいったなー。
「よーし、だいたいは終わったし、今日は切り上げて戻ろっか。」
「すみません...」
消え入りそうに返事をするカガミを促して、署に戻る。

「ねえ、今日は仕事ひけたら呑みに行こう?」
ということで街にくり出したんだけれど、例の路地でカガミの足が止まる。ああ、ここらで呑むのはちょっとやめといた方が無難かなあ。
「あ、そうだ。カガミ、ウチに来ない?」
「え?いやそんな、ご迷惑では」
「いやいや、どうせ気楽なひとり住まいだしさあ、こう見えてわたしゃツマミとか作るの得意で、前はけっこう同僚呼んだりもしてたんだよ。むさくるしいとこだけど、良かったらおいでよ、ね」

そんなこんなで、おれの部屋。
「さ、上がって上がって」
「すみません、お邪魔します」
「えっとーあぶらげにシソとチーズはさんで焼いてー大和煮の缶詰開けちゃおっかなー…あ、悪いんだけど買ってきたビール冷蔵庫に適当に入れといてくれる?」
「はい、あと何かお手伝いを…」
「カガミちゃん台所使った事ある?」「い、いえあまり…」「だよねぇ、」
途端にしゅんとするカガミ。あー、いかんいかんと、あわてて言い継ぐ。
「じゃ、ちゃぶ台の上これで拭いといてくれる?」
「は、はいっ!」
(わっかりやすいなぁ)
とりあえずおれは急いでつまみを用意することにした。

「ナカムラさん、昼間はすみませんでした!」
酒肴も並べてさあはじまり、というところでいきなりカガミが頭を下げた。
「ああ、もう気にしないの。それよりこれからも一緒にお仕事頑張ろうね?」
下げた頭を無性に撫でたくなるけど、それじゃあ子ども扱いしてるみたいだしなあ、と思ってグッとこらえ、それにしても、と伏せた顔をしげしげ眺める。こいつ、刑事にはちょっと見た目が綺麗すぎて、ついつい目立っちゃうんだよなあ。優秀だけど不器用だし、新宿でやってくの苦労するだろうなあ。
「でも、あの時ナカムラさんに助けていただいて助かりました。あんな情けない姿を晒して恥ずかしいのですけど。早くナカムラさんのように堂々と渡り合えるようになりたいです。」
ああ、睫毛がいやに長いなぁ、ヒゲなんてほんとに生えるのかねえ、子供のような顔してるよなあ、いや、女みたいな。そうだなぁ、こいつが女だったらなぁ……

「あの……ナカムラさん?」

あ。
「い、いやーちょっとボッとしちゃった、ゴメンねえ。さあ呑もうかぁ」
危ない危ない。なに考えてんだろ、おれ。
おれがカガミのコップに酒を注ぎ、カガミがおれのに注ぎ返す。そのほっそりと綺麗な指先が目を惹く。剣道も中々の腕前なカガミはどちらかと言えば体育会系と言えるのだけれど、振舞いに粗雑なところはなく時に優雅で、年中傍にいると正直どきりとすることもある。
「でもさーカガミちゃん背ぇ高いし脚長いしさ、逃げるやつ追っかける時なんて心強いと思うなぁ。力も強いから取り押さえるのもバッチリ安心、これから頼りにしてるよぉ」
そう言うとカガミは面映ゆそうに、
「いえ、そんな……しかし、足手まといにならぬよう精進します!」
と、真っ直ぐにこちらを見る。早くも酔いのせいか、目のふちを薄っすらと赤く染めている。そのうえ心なしかうるんだような瞳がどうにも艶っぽく見えて、なんだか眩しくって直視できずに、おれはカガミから目を逸らす。
「ええと、ナカムラさん、私が何か不味いことを言いましたか?」
ああ、おれももう酔っちまったかなあ……
「はは、は、参ったなあ、なあんか酔ったカガミちゃんが色っぽく見えてさぁ、ドキドキしてきちゃったみたいだよー。って、おっかしいよなあ、おれも酔っぱらっちゃったかなあ、あぁ何か変なこと言ってさ、ゴメンねー」
ぽかんと、あっけにとられた表情のカガミ。
(こいつは、えらいこと言っちゃったかな、やっぱしそうだよねえ……)
ところが次の瞬間、カガミは目をしばたたかせ、俯いた。
「俺は」
え?
「いえ私は、私の前を行くナカムラさんの姿が眩しくて、頼もしくて、ずっと一緒に働きたいと、ずっとナカムラさんの傍で刑事でいたいと思っていました……違うな。……いえ、そうなんですが……」
うん、と一つ頷いて、カガミは答えた。
「たぶん、私はナカムラさんが好きなんです」
「……おれを?」
「はい」
わぁ……うわあ。
「ナカムラさんの方は、どうなんでしょうか。さっきの言葉、私の事を好いて下さってると思って良いのでしょうか?」
どうしよ。困った。
「あのさ、」
「はい」
「おれは、お前を好きだけど、好きなんだと思うけど、でもこれは、カガミを綺麗な女性のように見てるせいだと思うんだよね。ごめんな、我ながら最低なこと言ってると思うんだけど、でも多分、そうなんだ」
ああ、カガミ、怒るよなあ。軽蔑されちゃうだろうなあ。でもしょうがないよなあ。
おれはカガミの前で正座して座りなおす。
「ごめん。カガミはちゃんと好きだって言ってくれてるのに、おれは酷いよなあ。ぶんなぐって、いいよ」

「……ナカムラさん、失礼します」
おれは観念して目を閉じた。
え?
痛烈な一発が来るかと思っていたら、キスされてた。
「……、ちょっと、ちょっとカガミ」
「すみません」
「……なんで?女の代わりなんて嫌だろ?」
「よくわかりません。私は、ナカムラさんが好きだと言ってくれたことの方が嬉しくて、他の事はどうでも良いのかもしれない」
「そうなのかなあ」
「ナカムラさん、私は女性になるわけにはいきません。自分以外の存在の振りをするなどという事はできませんし、したくありません。それはそれで良しとナカムラさんが了解して下さるなら、ナカムラさんが私の事をどの部分から好きになって下さったか、という事は、私は気にならないと思います」
おれ、こんな真っ直ぐな奴になんてこと言わせてんだろ。こいつ、なんて、善い奴なんだろ。
「おれ、やっぱりカガミが好きだなあ……」
「私もナカムラさんが好きです」
「あ、ああ、ツマミさめちゃったね。温め返してくるねぇ」
慌てて背を向けて台所へ逃げ込む。
なんだか、泣けてきちゃったよ。
きっと、これからどんどん、あいつのことが好きになってくんだろうなあ。

ずっと、一緒に居たいなあ。 

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