zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

訪問者


波の音を覆う程、飛び交ううみねこが姦しい。
それでも、ざしゅ、ざしゅ、砂を踏む足音が、次第に此方へ近づいて来るのが聞こえてきた。

「やっぱり来たねえ、探偵さん」
眺めていた沖から頭上へ目を移しナカムラは言った。
「やっと、というべきかなあ」
「フン」
探偵は浜辺に腰を下ろしているナカムラを、立ったまま見下ろす。
「ここで商売でもしてるのか」
「うん、まあねぇ」
沖合上空の群れから一羽が飛来して一瞬影を作り、また沖へと帰って行く。
そいつはたったいま頭上で圧倒的な存在感を示していたのに、群れに戻るともう見分けがつかない。
そんな光景を呆と眺めながら、ナカムラは傍らの男に答えた。
「廃業寸前の海の家で、ほそぼそとねー」
「寸前というより、外見はほとんどつぶれた店にしか見えんが」
「はは、きみ相変わらず遠慮ないねえ。いちおう営業いたしておりますよぉー、バイトの子に賃金あげたら手元にはほとんど残んないけど、まあ後はおれ独りでほかに養う人間もいないしさ」
「先にコバヤシとハシバが来ただろ」
「ああ、2人ともすっかりオトナだけど、相変わらず仲良さそうだったねえ。今も本業のかたわら同窓会みたいに集まっては探偵さんの助手してるんだって?」
「ああ」
「……で?おれに何か用があって、ここに来たんでしょ?」
「いや、別に」探偵はふいと海の方を振りかえる。
「このあたりにまた二十面相を騙る輩が現れたそうなんでな」
「へえぇー」
「さっき二人から聞いたんだろ」
「そうだねぇ」
「どうせ、もうお前は引退したんだろ」
「ふふ、まあねぇ」

「ね、あんたさぁ、なあんでまだ探偵なんて続けてるんだい?」
「そんなこと、いまさらお前が聞いてどうすんだ」
「良いじゃない、もう何もかもいまさらなんだし、教えてよ」
「俺は、立ち止まる気はないんだ」
「ふうん?」
「すまんな、」

「俺は、あんたを殺さない。」



「そうかぁ」
「ああ、またな」
「ふふ、またねぇ。」



遠ざかってゆく足音が、聞こえなくなるまで耳をすませる。
「ふふ」

またね、アケチ君。
またね、ハシバ君にコバヤシ君、
またね、ミナミちゃん。またね、ナミコシ。

またねぇ、
カガミ。