zencro’s diary

乱歩奇譚SS

終幕


一連の二十面相騒動も、ナミコシの遺骸の発見でようやく真の終息をみた。
最後に逮捕された元シンパの女性宅で植物状態の彼が発見され、移送される途中で車ごと行方が分からなくなったと思ったら、取り壊し寸前の倉庫内で何者かに腹部を刺された状態で再発見されたのだ。
新たな殺人事件として捜査は続いているが、伝説のように語られた原初当人の死が公表され、世間も二十面相の夢からようやく目が覚めつつあるようだ。
ハシバタワー事件からナミコシ発見までの10年の間に、二十面相シンパの殆どは一掃されていた。
この職場の地下に収容されていたあいつも、裁判ののち自らの望む極刑の判決を受けた。そして、その刑も既に執行された。

おれは諸々の味気無い残務処理を片付け、提出した辞表も受理されて、長年馴染んだ職場を去る。
探偵さんには、あいつの逮捕後しばらく組んでた奴を新しい連絡係として引き継ぎしてきたし、以前のあいつみたいに優秀で鬱陶しいくらい正義感に溢れるそいつとも別れを告げた。
色々引き止められたけど、まあ、ありがたいことなんだろうけど、いよいよもう電池切れだね。
寧ろ、よくまあここまで続けて来れたもんだと思う。

永すぎた。
つかれた。

懸命に職務に励んで、いやまあ、励んでいるからこそなんだけどさ、巻き込まれ心身削られて身を滅ぼしていく奴らを見るのは、実はもうだいぶん前から、おれ心底、飽き飽きしてたんだ。
かろうじてまだ身体は動くし、おつむも何とかイケるけど、情熱がすっかり去って武器は揃ってるって状態は、我ながらえらく物騒だと思うよ。
何を仕出かすかわかったもんじゃない。
今にして思えば、あいつがおれを慕ってきてくれる、その状態があんまり居心地良くて好きだったから、何とかこの職も続けて来れたんだ。
あいつに出会った頃にはほぼ冷めちまっていた情熱を、叱咤激励して何とかぶすぶす燻らせ続けてきたのは、そうだよ、ただその居心地良さのせいだ。
だから、あいつに慕われてる状況が無くなれば、もう此処にいる理由なんか無いんだ。
あの居心地良さがホントに懐かしく、もういちど全身を浸してみたいって思うけど、取り返したいって思うけど、もうさぁ、全て手遅れなんだよね。
二度と手に入らない。
おれはやっぱり何もできなかったし、何もしてやれなかったし。
まあもともと、おれは誰の為でもなく自分のエゴで動いてきたし、これからも同じようにするってだけなんだけどね。

終幕だよ。さよなら、さよなら。