zencro’s diary

乱歩奇譚SS

よふけ


ふと目が覚めた。なんか、夢を見てた。
やたら喉が渇いて、やれやれと起き上がりトイレで用足しのあと、冷蔵庫からペットボトルを引き出し飲んだ。喉がカラカラすぎて、水が通ってゆくのが痛いくらいだったが構わずごぶりと飲み込んだ。
「……ふぃー」思わず声に出しながら口を拭う。

嫌な夢だった。

俺はいつものデスクに座って、隣の席のカガミが机上の数種の書類にサインを入れてゆくのを見ている。やがて彼は立ち上がり部屋を出ようとするのを俺は阻もうとするがカガミは通せんぼする俺をすり抜けてすいすいと地下への階段を下りてゆく。だめだそっちは、戻って来い、おいカガミ、先輩の言うことを聞けよ、そっち行っちゃだめなんだってば、だってそこは
振り返りもせずいやそもそも俺がここにいること自体気付かずカガミはすたすたと最後の部屋へ入り、そして扉を閉ざす。
再び開いた扉から別の男が現れ、こちらに近寄ってきて小さな箱を俺に手渡す。
あけなくともわかる。まだ、温かい。
俺は、ぱくぱくと口を開閉するが声が出ない。
叫びたいのに、叫べない、暴れたいのに、手に持つ箱が重くて動けない。
ああ、と声にならない叫びをあげたところで、目が覚めたのだ。

不安になって部屋に戻る。
……ああ、ちゃんといた。
前に見たのと同じところで、眠っていた。
良かった……良かった。
へたり込んで、覗きこむように顔を眺めた。
不意にぽたっと、カガミの頬に滴が落ちる。
あれ、
慌てて目を拭おうとしたら間に合わずまたポタタッと落ちる。
「……え……ナカムラさん?」
ああ、起きちゃった。
「ああごめん、起こしちゃったな」
「どうしたんです」
「なんでもない、なんでもないよ」
「泣かないでください、ナカムラさん」
聞いた途端、引っ込めたと思ったのにまた込み上げてきた。
「ふ」
閉じた瞼になまあたたかく湿ったものが触れる。
涙を舐めとっているのがわかる。
(おい、よせよ)
言おうとして、やめた。
堪えようとするのもやめた。

カガミが背を撫でている。
なべて世はことも無し。