zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

花火


「カガミさーん、こっちですよー」
「あ、ナカムラさんもいるな。あたま一つ分低いから分かんなかったな」
「やあコバヤシ君、流石に混んでるね」
「ここからだと割とよく見えますからねー両側の街灯がちょっと邪魔ですけど」
「だから有料席で見ればいいと言ったじゃないか」
「でもハシバの名前で席とったらお行儀よくしなきゃだめだよね、それじゃ騒げないもん」
「羽目外しちゃいかんのは、公道のここだって同じことだがな」
「あ、そろそろ時間ですよ」
「わあ、あがったー」
「おおー、最初からずいぶんバンバンいくねえー」
「ええ、盛大ですね」
前のほうではしゃぐコバヤシ君たちを眺めながら、カガミが呟いた。
「この顔ぶれで花火見ることになるなんて、少し前までは思ってもみませんでした」
「そうだね、俺たちもアケチ君とはもともと面識あったけど、コバヤシ君たちとはあの人間椅子以来だもんね」
「ええ。あの後、結局私は2か月ともちませんでした」
「……もう、5年も前の事なんだね。カガミと花火見物ができて、うれしいなあ」
「私も、今こうしてあなたの横に居るということが奇跡のように思えます」
「なあカガミ、……手、つなごうか」
空を見上げていた顔をナカムラに向ける。
ああ、穏やかな笑顔。この笑顔に、どれほど救われてきたことだろう。
「はい」
二人は合わせた目を再び夜空へ向け、おずおずと、手を互いの方へ差し出す。
カガミの手が、ナカムラの手にたどり着く。
お互いの手の甲が触れる。
そっと、向きを変え掌を合わせる。
互いの指どうしを一本ずつ這わせあい、なぞりあう。
カガミの手指が、少し痩せて骨ばったナカムラの手を包む。
そして、ゆっくり手さぐりで、相手と自分の指を絡め合う。
「ふふ、ちょっとドキドキするね」
「はい」
夜空につぎつぎ咲いては消える大輪の華々。
「綺麗だな」
自然に声が漏れる。

きゅ。
そのときナカムラの手が握る力を強めた。
瞬間、カガミの耳から、辺りの喧騒も打ち上げの轟音も消え去った。

「カガミ、誕生日おめでとう」 ただナカムラの声だけが鮮やかに聞こえた。

「俺の横に居てくれて、ありがとう」

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