zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

フールズ


僕らは、両親が死んでからの6年を二人きりで過ごしてた。たった6年。
その6年が、あんなふうに終わるなんて思わなかった。

房で独りで過ごすなか僕は、どうしても「もしも」の世界を思ってしまう。
もしも、あのとき約束通り早く家に帰っていたら。
もしも、あの男をあの場で銃殺していたら、
警察官など目指さなければ、
新宿中央署に配属されなければ、
ナカムラさんとパートナーにならなかったら、
二十面相が存在していなかったら。
これらすべてにおいてあの子には何の責も関わりも無かった。
なのに、なぜあれほどの残酷が、彼女めがけ振り落とされねばならなかったのか。
なぜあの男と、なぜ二十面相と、同じ時空に僕らは居合わせなければならなかったのか。
なぜ僕は、ナカムラさんと出会ってしまったのだろう。

そしてあれからすでに6年。

出所した今、僕は毎月トキコに花を手向けに行く。僕も入るはずだったその墓所に。
そして、離れたところで猫背を向けてナカムラさんが立っている。
僕らの邪魔をしないよう、そっぽを向いて待ってくれてる。
でも僕は気付いてる。気遣わしげに時折こちらをちらちら窺っていることを。
ナカムラさんも一緒に花を上げてください、と言っても、頑固なまでに同意しない。
でも僕は知ってる。僕が収監されている間はずっと彼が、季節の花々を供えては考え付く限りの慰めのことばを残してきたことを。

トキコ、この人によって僕はまだこの世に繋がれている。
この人のせいで僕は自分にとどめをさせないでいる。
この人のおかげで僕はいまだに人を好きになってしまう。
この人のために僕は、幸せであろうとすらしてしまう。
この人は、僕を愚かにする。

僕は、彼を、好きにならずにいられない。