zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

面会続


「や、カガミ。元気してる?」
「ナカムラさん、そう俺のためにあなたの貴重な時間を割かないでください」
「そんなこというなよー、いいじゃん、どうせ職場の真下なんだしさぁ。それに、俺こう見えて結構マジメなのよ?ちゃんと職務に励んでるから安心してほしいなあ。」
「…...そんなことおっしゃいますが、この間アケチ君が来て、ナカムラさんが事件を押し付けるだけ押し付けて、ろくに話もせずにそそくさと出て行ってしまう、打ち合わせぐらい落ち着いてさせろって訴えていきましたよ。」
「えええ、あの子…...いやいや、探偵さんってばそんなことカガミに漏らしてんの?俺には別に何も言わないのに、へえーお前にはずいぶん心許してんだねえ。」
「ナカムラさん!!!」
「あぁは、まあまあ、でもそりゃそうかぁ、おまえは彼が中学生の頃から付き合ってたんだもんなあ。あの無愛想な子がお前のことは結構饒舌にしゃべるし、お前自身の事も心配してるよ」
「そうですか……」
「彼って身内もいないようだし、学校も行ってないからねー、ナミコシも行方不明で黒蜥蜴と影男はよく分からんからまあ置いといて、あとはコバヤシ君とハシバ君、それと俺たちくらいしか話す相手いないしねー。カガミとは、その中でも一番まともに話ができてたんじゃないの。もともと、連絡係に指名してきたくらいだったし」
「そうですね。彼は相当大人びてしっかりしているように見えますがまだ十代なんですよね……傍にいる俺がもっと範を示さねばならなかったのに、それどころか彼を裏切る結果になって、本当にすまないと思っています」
「ああ、そういう意味じゃなかったんだけどなぁ、悪い悪い、アケチ君が今も変わらずお前を気にかけてるっていいたかったんだよ。」
「俺があんな酷い事をしたのに、あなた方を裏切ったというのに、未だにナカムラさんやアケチ君が面会に来てくれる、というのが俺にはよくわからないんです……」

なぜ俺が裏切った人たちは俺を見限らないんだろう。
何故そんなことができるんだろう。


「よっ、どうだい調子は?」
「あなたも懲りないですね……」
「へ、なんか懲りなきゃならない事ってあったっけ?俺は、お前に会いたいから来てるだけだよ」
「アケチ君から聞きましたよ、ずっと弁護士にしつこく食い下がっているって。」
「ああー、まぁた探偵さんってば、お前には何でもしゃべっちゃうんだなあ。」
「もう良いんです、俺自身がこのまま極刑になる事を望んでいるんですから。だから、ナカムラさんも貴重な時間を犯罪者の俺にもう費やさないでください。お願いします」
「酷いなぁ、そんなこと言わないでよ。俺はお前に生きて、何年かかろうといつか出所して、自分を活かせる在り処を見つけて欲しいんだよ。」
「ナカムラさんは、15人も惨殺した俺が社会に戻って何かの役に立てると、本当に思っているんですか?このまま此処に隔離されて、税金を少しでも使用せずに済むよう、できるだけ速やかに処刑したほうが世の中のためだとは思わないのですか?」
「またそんな情けないこと言って。もう二十面相に引っぱられるのはやめようや。警視にまでなったお前が、なんで未だに死刑しか考えられなくなっちまってんだよ。怪人二十面相は、虐げられた未成年の子どもが夢見た独りよがりなヒーローだった。お前だってあの夜、大人である自分が押しとどめるどころか子どもらの犯罪を助長してしまったと泣いてたじゃないか。」
「ナカムラさんは、あのスナガを赦すことができますか?
「彼を赦せないのなら、この俺だって赦せないはずですよね。彼がトキコにしたのと同じことを彼にした上に、そこで自首もせず捕まらない限り殺人を続けていたのですから。
「俺は彼らのような人間が何故次々と出てくるのか、ここに来て以来考え続けているのです。
「何故、彼らのような人間が生まれて成長する過程で正されないのか、
「何故、罪を重ねれば重ねるほどその異常性が却って彼自身の自由を保障してしまうのか、
「そして何故、トキコのような犠牲者が出続けるのをだれも止めることができないのか、
「ナカムラさん、何故俺は、トキコを守ることができなかったんですか?
「俺が警察にいて『スナガ』を捕まえようと捕まえまいと、また警察に務めていようといまいと、『トキコ』はいわれもなく惨たらしく殺されるんですよ。『スナガ』が何度も野放しになるこの世界では、何度でも『トキコ』は殺され続けるんです。
「俺の犯罪は言い訳のしようがありません。俺は、この世界に間違った形で報復を行いました。スナガの手法を模倣して彼を断罪し、さらに私刑で15人も殺した。しかも、警察組織の中にいて、その立場を利用していた。極刑が妥当であり、それを曲げるのは無理というものです」
「お前は、社会から正されない異分子を排除し続ければ、正しい世界になると信じたのか。そんなんキリがないに決まってんじゃねえか。周り見てみろよ、俺もアケチ君も、ハシバ君やコバヤシ君らだって立派な『異分子』で『異端者』で『危険人物』だよ。誰であろうと、他の人間に完全把握などできるわけがないんだ。二十面相なんざ続けていった日にゃ、生きてることを赦される人間なんて一人もいなくなっちまうぞ。俺、お前に言った事あったよな、根絶は無理でも減らす事はできるってさ。
「ああ、正直に言うよ俺はスナガを赦す気なんか毛頭無いよ、まっぴらだよ、お前より先に一対一になる事があったら、俺が息の根止めててもおかしくないよ。でもさ、どこが赦せる・赦せないの境目かなんて、判別なんてできないよな。
「ごめんな、俺こそが二十面相事件に引っぱられて、俺とお前とどっちが正しいのか分かんなくなったなんて言ってたんだよな。それにさ、お前が捕まるまで、俺はずーっとお前の傍にいたはずなのに、お前がどんな思いであの日を過ごしたかわかってやれたはずなのに、ここまでお前を独りにさせちまっててごめんな。」

ごめんと繰り返しながらナカムラさんは退出していった。
最後にお決まりの「また、来るから。」を言い残して。



ナカムラさん、二十面相はもう関係ないんですよ。
暗黒星の有る無しに関係なく、トキコが奪われれば俺は常軌を逸して社会に害なすものになる。
俺自身がその事を把握したからには、俺は、社会から断罪されなければならないんです。