zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

マニアの受難


「ねえ見てよー 検屍結果報告ん時の決めポーズ、こっちと……、こっち、どっちが良いー?」
「あのさ、いっつも思うんだけど何でそんな振り付けが要るの?フツーに淡々と説明すりゃいーじゃない、疲れるでしょ?」
俺は腕を枕にごろんと横になりながら、小さい体で手足をぶん回してみせるミナミに訊き返す。
「かーっゼンちゃん分かってない!わたしは検屍官という名の表現者なの!この瑞々しーカラダにはちきれんばかりに高まったパトスを、事件解決の旋律にのせて一気に解放するのよ、昇華よ、成仏よー!芸術性をより高めるためにこの決めポーズはね、じゅうようなのよー!」
ああー甲高い声がキンキン響く……オジサン、若い娘としゃべり慣れてないからさあ、いきなりまくしたてられると目ぇ回っちゃうよ?
「うんうん、仕事に対する情熱って大事だよねえ。そのショーカとかジョーブツとかはよく分かんないけど」
「そーよぉ人生とボディにはメリハリが必要よー。毎度報告の時コレやってれば、反射神経も鍛えられて何時なんどき背後から襲われても返り討ちにする自信が湧くよね!でもそれだけじゃ心もとないからボクシングジムにも通っているけどね!おかげで仕事もボディラインもカンペキ、カンペキィィィ!」
うわぁ、聴いてるだけで息切れしそうだよねー。でもうん、
「ミナミちゃんは確かにスタイル良いよねえ。そうかぁそんなに鍛えてるんだあ。喧嘩したら俺なんか簡単にぶっ飛ばされちゃいそうだねえ怖いなあ」
「でさぁ、どっちがいい?」
「んーそだねえ、オジサンは、あとの方がいいかなあー怪傑ズバットみたいでー」
「……ゼンちゃん、幾つだっけ?たまに30代とは思えない発言するね?」
「へええ、そーいうミナミちゃんこそ、よく知ってるねぇ。ひょっとして特撮マニア?」
と、しゃべってる合間にあっという間にシャワーで汗流して戻ってくる早業、さすが若いなあ。
冷蔵庫から冷えた缶ビール2つ出してひとつを渡してやる。
「そうそ、昔の特撮って良いのよー決めポーズの宝庫なのよー動画やらDVDやらチェックしてさ。あのほのかなダサさがいいスパイスになってるのよね、プッハァァァー」
まくしたてながら呑んで、よくむせないねー器用だなあ。
「ふーん、じゃあ家にそんなDVDボックスとか持ってる?こんど持ってきてよ」
「いーや、わたしはモノ持たない主義なのだ。ぜーんぶネットかレンタルね。モノってさ、部屋をどんどん占領してきて積み重なった下の方なんてホコリとともに怨念が溜まってくみたいで気味悪いじゃない?人間、常に身軽を心掛けないとがんじがらめで身動きできなくなっちゃうよー?」
ははぁ、現代っ子はモノに執着しないんだ。不安にならないのかなあ。俺なんか、好きなものは常に傍に置いとかないと不安になっちゃうけどなぁ。

……

なんだミナミちゃん。君だって、いつも「弟」を連れていたんじゃないか。