zencro’s diary

乱歩奇譚SS

決戦前


取調室に大人しく座っているミナミ。普段の独特のふざけた扮装を解いた彼女はだいぶん大人びて見えた。
「カガミを手引きしたのは君なのか?」「そんな事今はどうだっていいわ」「否定しないところ見るとそうなんじゃないの?」
「誰が関わろうと関わるまいと彼は二十面相になったわ。彼は自分で調べ尽くさずにいられなかった、そして結論し準備し実行したの」
「君は妹の検屍結果を真っ先にカガミに伝えたな。他の人間を交えずに単独で。カガミがスナガを捕え自宅マンションで監禁を開始したのは時間的にそのほぼ直後と言っていい。
いっぽう君は、3年前から原初二十面相のパートナーだった。君が手引きしたと見るのが自然じゃないか?」
ミナミはこちらをまっすぐ見据えた。その眉が、嗜虐的に歪んでいたように見えたのは気のせいだろうか。
「手引きしたって?そりゃそう思いたいわよねぇ、仮にも本庁捜査一課の刑事、しかもエリート警視が、こともあろうに法の正義をあざ笑う二十面相になるなんてねえ!
...もしそうだとして、じゃあナカムラ警部、あんたは何してたの、始終そばに居て何で気付かなかったの?彼の妹が死んですぐ二十面相が出現して、なんであんたは気付かなかったの?」
傷に爪を立てるように彼女は言葉を紡ぎ出す。ああ、それは査問でさんざ絞られたよね。
「まあいいわ、あたし自身は警視に妹の検屍結果を教えてあげただけよ。スナガにどんな事をされたのか、その"どの段階"で脳死に至ったのか、どんな薬物がどのように使用されればそんな結果になるのかを、丁寧にかつ詳細に、職務に忠実にね。」
「なるほどね、その通りにすればカガミもスナガを同じように処置することができたと言う訳だ。あとは、スナガの居所をおさえて誰にも知られず自宅に連れて行けばいい。君がレシピを教え、食材の居場所を教えた、そうだろ?」
「さっき言った通りよ。あたしは自分のすべき事をしただけ。カガミ警視も、彼のすべきと思った事をしただけなのよ。」
「じゃあ、質問を変えようか。そもそも、スナガにカガミの住所を教えたのは、奴に妹を殺すよう仕向けたのは、君らなのか?」
「そんなのあたしは知らないわ。でもそうね、二十面相はどこにでもいるのよ。スナガを収容した病院にだっていたかもしれない。吹き込んで、凶器を与え、行く手の障害を全て払ってやった者も、いたかもね。あたし達は次々と生まれる二十面相によって事が運ぶのを眺めていただけ。
ただ、はっきりと二十面相として"有効な"断罪を再開したのは警視だったわね。そして、世間に知らしめたのも。以来、次々と彼に追随するものが現れた。いい広告塔になっちゃったわけよね」
「...そして君は自分の復讐を果たすと同時に一芝居うち、今はコバヤシ君が行方不明だ。
君、他人事みたいに言ってるけどさぁ、みんなアケチ君へのあてつけじゃないの?原初二十面相のナミコシが、旧知の仲で最も君らの脅威になるアケチ君から周囲の人間を削り落としていくのが目的だったんじゃないの?アケチ君がカガミを担当に選んだ時から、あの兄妹を生贄にするつもりだったんじゃあないの?」

すると彼女はそれまでの酷薄な物言いから一転、優しささえこめたような声で言った。
「あなたはわたしに何を言って欲しいの?でもわたしが何を言っても事実は変わらないのよ。」

街では仮面の群衆による暴動がますます激しさを増している。
「そろそろ時間ね」ミナミが呟いた。