zencro’s diary

乱歩奇譚SS

蛇足


ナカムラはカガミがどこにいてなにをしていようと彼が幸せであればそれで良いと思っていた。そしてカガミはナカムラが側にいて自分だけを見ていれば幸せだと思っている。ナカムラはカガミがそう思うのであれば側にいてカガミだけを見ていようと思う。均衡が破れない限り、彼らは平穏な日々を送り続けた筈だった。
ある日カガミの妹が惨殺されてカガミが二十面相となり逮捕された事でその均衡が破られる。
ナカムラはできうる限りカガミの側にいようと足繁く面会に訪れる。そしてカガミは、自分にはもう幸せになる資格はないと思い、「俺に気遣いはしなくていいですよ」「俺みたいにならないでください、俺の憧れの先輩のままでいてください」とナカムラを突き放そうとする。ただ、「来るな」と言う事はできないでいる。ナカムラは辛抱強くカガミの側に身を置き続けようとする。
しかし、やがてカガミに死刑判決が下される。妹の死後は自分に許される唯一の望みであった判決を安堵して受けとめるカガミ。判決以来は一転して幸せそうに穏やかな笑顔も見せるようになったカガミに、ナカムラは強く動揺する。

俺は彼がどこで何をしても幸せなら良いと思っていた、そして彼はいまや念願叶って幸せそうだ。だが俺は受け入れる事ができない。彼を追いつめ続けた犯罪者と警察組織、そそのかし誘い込み自滅させた二十面相一派、かつて同じ苦渋を舐めておきながら彼を救うこともできず今も安全な場所にいる自分、すべてがよってたかって彼を削り殺してきた。その上、このままこの世から彼の存在を消去し忘却しようなどと、俺はどうしても許す事はできない。ごめんなカガミ。今お前は幸せそうだが、俺はその幸せをぶち壊そう。お前を殺してきたすべてを覆し俺はお前を解き放とう。

そしてカガミは不幸になり、それ故、ナカムラも不幸になった。