zencro’s diary

乱歩奇譚SS

大家さんと僕


日曜の午後。
座布団二つ折りを枕に休日最後の貴重な昼寝をキメているさなか、階下から呼ばわる声がした。
「ゼンちゃーんお菓子あるよーお茶おいでー」
年季の入った木造モルタル二階建ては、階下の大家の声も筒抜けだ。
ふあーあ、と大きくあくびを一発かまし、よっこいしょういちっと起き上がる。玄関からカンカンとつっかけの音を鳴らして階段を降り、大家の部屋の前に行くと、木切れをドアストッパー代わりに挟んで開けっ放しにしている。
「あーあ、今どき不用心でしょうに...こんにちはぁーお邪魔しまあすナカムラでえす」「おや、早いね」
玄関からすぐの台所で、大家のおばさんが湯を沸かしながら急須に茶葉を放り込んでいた。
「開けっ放しさ、あんま良くないですよ、この辺も物騒だしさあ。それにあったかくなってきたとはいえ風吹きこむと寒くない?」
「何言ってんの、下手にきっちり戸締りするからなんかありそうだって勘ぐられんの。まあいいからあがって向こう座っててお茶持ってくから、あ、寒かったら閉めていいよ?」
「いやあ、だいじょぶっす」と陽当たりの良い6畳部屋の窓際におさまる。はぁーあったかいなーぽかぽかするなぁーぽかぽか...
 ... ぐぅー…
「あれ、やだ寝ちゃったの?ちょっとー」ゆさゆさ。
「ん、あぁ?…わわスンマセン…ふわぁ。」
「まったくどっちが不用心なんだか、そんなんでよくケーサツが勤まるねえ。ハイ、お茶どーぞ?」
「あ、どもぉー」ずずず。「ふぅー」
「新茶だよ、どお?」「うまいですーお茶の香りがするなあー」「お茶なんだから当たり前でしょーよ」「だって署のお茶は色しかついてない出涸らしみたいなもんだからさあ。ひとり暮らしだとお茶っ葉なんてめったに買わないし。」
「ほんといつまで経ってもあんたは色気のある話が無いねえ。連れ込むのは男ばっかだし。でさ、あのさ、いい話があるんだけど」
「えーまたですかあ」
「あんたもう…いくつだっけ?まああれだ、アラフォーでしょ、いいかげん考えないといかんでしょ。まあ今どき一生ひとりって人も多いと思うけどさ、まあ見るだけ見ときなよってけっこう可愛いよ~。」
「俺めんくいじゃないもん。」
「もん、じゃないよいいおっさんがコドモみたいに。まあいいや、コドモにはどら焼きをあげようね」
「わーいおばちゃんありがとう」
…あれ?なんか溜息ついてる。
「もうあんたの母親が逝って20年くらいになるか、あんたもそろそろ母親の歳越しちゃうねえ。ま、あのひとも歳食っても子どもっぽいとこあったよねえ」
「おばちゃんみたいな世話焼きがそばにいたら、自分がオトナになる必要ないもんね。」
「おかげでこっちばかりどんどん老ける、ってか。あんたもさ、カタい仕事に就いてひと安心と思ったら、髪もロクにとかさず無精ヒゲで。スーツ姿と思えば足はどた靴だし」
「スニーカーだってば」
「革靴くらい履きなさいよ」
「走りにくいでしょお。べつに怒られたことないしさ、いいじゃない」
「ねぇ、ほんっとにいい人いないの?好きな人とかさー」
「いるよ」
「いるの!?どんな人?」
「まっすぐ相手を見て話す人」
「なんかよくわかんないんだけど」
「ええっとね、背が高くて足が速くて、妹想いで家事はからきしダメで、剣道が強くて正義感がイヤんなるほど強くて、ストイックにみえてすぐ手が出る人。」
「なんかずいぶんオトコらしいひとねえ」
「そりゃそうだよ男だもん」
「え何あんたそういう人なの?」
「そうそう、だからもう見合い話持ってこないでよね」
「あー。そういうことか。そうはいかないわよ~」
「うそじゃないよ?」
「何いってんのこの大法螺吹きが。とっとと嫁さんもらって落ち着きなさい!」

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延々続く、無駄話。