zencro’s diary

乱歩奇譚SS

冷蔵庫


最近めっきり寒くなった。
着いたばかりの部屋はしんと冷えて静まりかえり、コートも脱がずまっすぐ台所に向かってビールを取り出し、冷蔵庫の前に座り込む。凍結寸前のような缶に指を貼り付かせながらプルタブを押し上げ流し込むと、冷え切った炭酸がのどを越えて空きっ腹の底にたまる。明かりも点けず台所の窓から射し込む月明かりの中、冷蔵庫の扉を眺め続けた。
結局何にもしてやれなかったな。あんなに真面目で一所懸命なやつだったのに。職務に忠実で誰に対しても誠実で、誰かが悲しむのを一人でも減らしたいんだって、家族にも言ってたような奴だったのに。そのたった一人の家族もあんな酷い殺され方をして、俺はあいつを中途半端に止めるだけで、結局はあいつにとって最悪の結末へと導いてしまった。なら、断罪の鎌は俺にこそ振り降ろされれば良いと思った、だがそんな事はしょせん俺の気が済むだけで、あいつにとって何の慰めにもなりゃしない。ほんとうに、俺は結局あいつに仇なすばかりで何にもしてやれなかった。なのに、最後に面会した時、あいつは昔からの澄んだまっすぐな目で言った。

「また生を受ける時が来るならば、俺は再び刑事を志すと思います。それ以外の生き方は恐らく俺にはできないでしょう。そしてそうであるならば、今度こそ世の人も家族もできれば悲しませたくないですが、こんなにもたくさん人を殺してしまった俺には、生まれ変わってもそれはできない相談かもしれませんね。
「でも、もし叶うなら、この世でそうであったと同じように、俺はあなたと共に働きたい。」

俺はその時いったいどんな顔して聞いていたのか。
わかんないよ、なんでお前がそんな事を言うのか、言ってくれるのか、言えるのか。でもそのせいで、俺はまだこの世で生きて刑事を続けてる。でもさあ、俺、最近笑い顔作れなくなってきたんだよ。まだ駄目か?まだ笑って続けなきゃ駄目か?

いつか、誰かが終わらせてくれるんだろうか?それともいつか、誰かが俺の考えをひっくり返して俺をびっくりさせてくれるんだろうか?