zencro’s diary

乱歩奇譚SS

サイレン


今朝、通告された。

さまざまな手続きと儀式のようなあれこれを経た後、やっと首に縄がかけられた。
結局俺は何一つ残さず何一つ守れず、ただ奪い傷つけるのみだった人生を終える。
ナカムラさん、さようなら。ごめんなトキコ。俺はお前の居るところに行けない。

ふとその時、どこか上空からサイレンのような音が聴こえてくるのに気付いた。
ここに来てから一度も聞いたことの無いサイレン音だった。だが、まわりの刑務官にはそれが聞こえているふうには感じられない。非常用のサイレン音とは違い、どこかとても懐かしさを覚えるその音色。はるか上空で、或いは耳の奥で、柔らかく長く永く尾を引きながら鳴り響くサイレン。

ガタンと足下で音がした時、何故だか了解した。俺はいつだって幸福であったと。トキコの誕生、両親の死、あの部屋に移り住んだ時、合格祝い、あの人に初めて会った就任時、初めて犯人逮捕を達成した時、逮捕の虚しい結果に嘆いた時、トキコの努力が報われた時、トキコの骸に対面した時、闇に自ら望んで堕ちた時、そして今、こんな無残な罪人だというのに、それでもどうしようもなく幸せだったと。

ぬけるほどの青空だった。
「サイレンが聴こえる」
蒼空を仰ぎ、ナカムラは呟いた。