zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

無題


〈抱きしめると無くなりそうですね〉
耳元でそいつが囁いた。ああ昔同じこと言われたな、いつだったかな… 外部の音が遮断されてしんとした中、唸りを上げるヒータはまだ効かなくて、乗ったばかりの車内はすっかり冷え切ったシートの冷気が支配している。ドアを閉めるなり抱きすくめられ、でも彼の手も身にまとったコートも冷たくて、ただ耳元でささやく声だけが温かい。

《細いとは思ってたけど、お前って抱きしめるとなくなりそうだな》
ああ、昔組んでたあいつが言った言葉だったよ。思い出しちゃったよ、参ったなあ。

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