zencro’s diary

乱歩奇譚SS

影男

年の瀬

「カガミ、面会だ」 何度も読み返した文庫本から目を上げ、カガミは看守の方を見上げた。 「はい。申し訳ありませんがお断りしてください」 またか、という顔をして看守は遠ざかる。カガミは再びてもとの本に目を落とした。 (おいおい、まーた追い返すのか…

デイドリーム

1 外が騒がしい。収監されている部屋の明かりが点滅している。 外の係員の怒号と争う音、金属の破壊音、夥しい足音とおれも外へ出せという叫び、明らかに統率しようとする側が圧倒されている様子が音だけでもわかるような異常事態。 何も対応しようがないの…

往来

「カガミケイスケ、面会だ」 呼ばれ、カガミは面会室へ向かった。収監されて以来、しょっちゅうナカムラは面会に来る。それこそ以前ともに働いていた数年間と変わらぬ頻度で顔を合わせている気がするほどだ。これほど自分に時間を割いて、刑事の職務はちゃん…

君とだけドーナツ

ナカムラが一心不乱に食べているもの、それはエンゼルクリームドーナツだった。一緒に買ったと思しきコーヒーはぽつねんとベンチの上に置き去りのまま、ほとんど口を付けられていない。ひとつ終わるとまたひとつ、コンビニロゴの付いたビニール袋からゴソゴ…

影男

私は生後間もなく体の骨格が溶解していく病魔に侵された。ごく一般的な家庭でその病はとても手に負えず、両親は政府に説得され、私を宮直属の病院に手渡すことに同意。以後私は思春期に至るまで人里離れた隔離施設で最先 端の治療を施され、様々な薬を試され…