zencro’s diary

乱╲(・ω・)/歩 ╲(・ω・)/奇╲(・ω・)/譚

ナカムラ

また別の朝の風景

ナカムラさんが布団から出てこない。「どうしたんですか、仕事に遅れますよ」「ンー」モゾモゾモゾ。布団のこんもりした山がイヤイヤをするように緩慢にうごめく。「どこか、具合がわるいんですか?」「ンー?ンーン」モゾモゾモゾ。「ごはんですよ」「ねむ…

「や、きょうは一段と冷えるねえ」帰って来たナカムラは猫背をさらにまるめてブルっと震え、六畳間に座る。「ナカムラさん、また靴下も履かないで。素足じゃ、ますます冷えますよ」「だってムレるんだもん。家にいるときくらいうっとおしいもん外して清々し…

南瓜

「ハロウィンねぇ。わたしの子ども時代にそんなお祭りなかったけど、カガミくん、やってた?お菓子かイタズラか!ってさ」 「いえ、私は全く。流行りだしたのはここ数年ですよね。そういえばトキコは友達と街へ繰り出すようになりましたね。学校でも仮装パー…

休息・幻

休息 傍目には淡々と、諸々の手配や手続きを終えた後、カガミは休みなく出勤していた。 「警視、少し休まれた方が良いですよ。わたしらでなんとかしますから」 「いえ私は大丈夫ですから。それよりナカムラさん、例の件ですが」 ナカムラのすすめにも丁寧に…

空気

このままでは、まずい。とカガミは思った。自分は昔から、あまり人の体に触ったりすることは無かった。たった一人の肉親だったトキコに対しても、せいぜい頭をなでるぐらいだったと思う。 それが、出所後ナカムラさんに厄介になってしばらくたった最近では、…

9月9日

このところ涼しくなったと思ったのに、今日はまた陽射しがきつい一日だった。 やれやれと思いながら古びた冷蔵庫を何となく開けて、缶ビールとキュウリを取り出しいったん閉めたが「あれ?」と思いまた開く。 ああ、そういえばこんなん入れといたっけ。 買い…

悩む人

胡散臭い人だな、というのが第一印象だった。夏でもないのに日焼けしたような肌に、痩せた、というより枯れ枝のような体に引っかかるように羽織った似合わないスーツ。いつ散髪に行ったかわからない髪、無精髭。そのうえ極度の猫背で、なぜか常に自分の胴体…

夏の花

「あ、茜」 「え」 「ほら、あんなに咲いてる。もう秋かあ」 「茜って、茜色ではないんですか」 「それって根っこの話らしいよ。花はずいぶん控えめだよね」 「可愛い花ですね」 「うん」 「ナカムラさんは野草に詳しいんですね」 「いやーべつに」 「でも」…

ツール(カガミの誕生日に寄せて)

「まだ早いよ」ナカムラが横で皿を拭くカガミに言う。 「しかしこのままでは、多忙なナカムラさんに代わってお使いすることもできません。近所に買い物に出たり銀行や役所を回るくらいは許可していただけませんか」カガミは左で中華鍋をガシガシ洗うナカムラ…

続朝の風景

「では、明日は一日留守にします」カガミはボストンバックを掴んだ。 「うん、一緒に出発できたらよかったんだけどねー、おれもなるべく急いで後から行くから、気をつけて」「はい、ありがとうございます。サングラスと帽子も着用して、慎重な行動を心がけま…

朝の風景

ナカムラさんの朝はそれなりに早い。だが寝起きは悪い。 ペタンコな布団で目覚めるといったん丸まり、2、3秒後「ううーん」という声を発してぐいーんと手足を伸ばす。そのままうつぶせになってまた2、3秒後に「ふんっ」と言って体を布団から引き剥がす。一気…

芋虫異聞

ナカムラがカガミ部長の下に配属となって2年ほど経った。初めは何かと言えば正義だ義務だと堅すぎるがために周囲との衝突も多い上司に辟易することも無いではなかったが、やがてその真面目な仕事ぶりと熱意に憧れを抱くようになっていった。 ある日ナカムラ…

幼馴染(乱歩奇譚ワンクリお題「年齢操作」)

「ケースケケースケ、ここ!寄ってこうよー」くいくいと制服の端を引っ張るゼンシロウ。 「ゼン、そんなこと言ったって僕お金持ってないし、買い食いなんかしたらかあさんに怒られるから」 「あっそっかあーケースケんち厳しいもんなぁ」 「ゼンはお金持って…

8月9日

夏の終わり、極刑を免れ刑期を終えたカガミを、ナカムラは当然のように自分の家に迎え入れた。 ぎこちないながらも共同生活が続く。散り積もった銀杏の黄色い葉を踏んで二人が歩く。 「ナカムラさん、どうして俺をナカムラさんの家に入れてくれたんですか」 …

花火0.1

うわ、降ってきた。 その日は思いがけなく仕事も早く済んで、ナカムラに誘われるままに近場の花火大会に出向いたが、日中から怪しげな雲行きの空は次第にどす黒く変わり、ついには天気予報通り振り出したのだった。 「ほらカガミ、グズグズしてると始まっち…

再会

ちょっと一杯だけのつもりだった。 だが最初に寄った店は閉まるのが早く早々に放り出されてなんだか気分が収まらない。 「仕方ねぇなあ」ともう少し長くやっていそうな店を物色する。 程無くステンドグラス風の看板の光に引き寄せられ、その店のカウンターに…

kawaii(乱歩奇譚ワンクリお題「寝起き姿」)

「そういえばふたりで探偵事務所に来るの珍しいですよね?…あれっ留守かな。上がって待ってましょうか」 ナカムラは慣れた様子で合鍵を使い、刑事二人は部屋に上がりこんだ。 「あー、なんだぁ探偵さん寝てるよ。へぇ、宮付きだの天才少年探偵だの言っても、…

景色

「カガミ、おいカガミ!」 呼びかける声に、カガミ警視は目覚めた。 「あふぇ?」 「あ~、よかったぁ〜」 目を開けたカガミを見て、ナカムラはほーっと胸をなでおろす。 ぽかっとまぶたを開けたまま、不思議そうにナカムラを見上げるカガミ。続いて、カガミ…

おやつ

「こんにちはセンパイ」「おじゃまします」 「またお前らか。今日は眠い、帰れ」 「ハシバ君がアップルパイ持ってきてくれたんですよ、みんなで食べましょう」 「人の話聞いてるか」 「だって、ハシバ君のお母さんのお手製ですよ?フィリングだって、財閥の…

酒宴

「警視の髪ってクセがありますよねえ。ガッコとかで先生に目ェつけられたりとかしませんでした?」 アルコールが入って普段より気安さが増した気配のナカムラが、カガミの頭を弄っている。 「ええ、それに髪の色も薄いので染めてるのかと言われてましたね。…

往来

「カガミケイスケ、面会だ」 呼ばれ、カガミは面会室へ向かった。収監されて以来、しょっちゅうナカムラは面会に来る。それこそ以前ともに働いていた数年間と変わらぬ頻度で顔を合わせている気がするほどだ。これほど自分に時間を割いて、刑事の職務はちゃん…

6月のおもいで

「ナカムラさんいらっしゃいますか?……あれ、ここにもいない」 「なんだぁ、お前がここに顔出すって珍しいなカガミ」 換気レベルを最大にしてもなお視界が良くない部屋の中から声がする。 「一課にも姿が見えませんし、出かけるという報告もないんですよ。ご…

地下へ

直通エレベーターが警視庁最下層へと辿りつく。 分厚い鋼鉄の壁で周囲の音が完全に遮断された空間で、自身の足音と衣擦れの音のみを聞きながら、長い廊下を目的の房へ向かう。 突き当りに立つ当直官にバッジを見せ、正面のドアが重低音を響かせ開いてゆくの…

休暇

ナカムラさん、もう俺は、死刑が確定した人間です。そんな望みの無い人間のもとへ、ナカムラさんが日々、訪れてくださるのが、俺は正直辛いです。俺が犯罪者に堕ちるのを阻止できなかったと、あなたは負い目に感じているかもしれませんが、断じてあなたが責…

ドレス

カガミが釈放された。 出所の日、外で出迎えたナカムラは、しかし彼の様子がおかしいと勘づいた。 出所時の手続きも受け答えもちゃんとこなしていたのだが、何かがおかしい。 それは、馴染みの探偵事務所の連中も察したようだった。 それでも、その日は何か…

階段

この階段を降りるのも、もう何度目になるだろう。無愛想な蛍光灯が控えめに点灯するしんとした階段室。めざす場所は地下深いところで、途中のフロアは一切無い。震災後しばらくはエレベータ使用を憚り階段を利用する者もいたが、いまはまたほとんどの署員が…

去日

どの位こうしていたんだろう。 六畳間に猫背で胡坐をかき、頭の奥でシーンという音を感じながらぼうっとしていたら、窓の外は夕焼けから夜空になってた。どのくらい一緒に居たっけ。ほんの数年なんだよなあ。「ちゃん」、から初手柄で「くん」呼びになるのは…

バレンタイン

ナカムラが待機する車に、カガミがドアを開け助手席に座った。 「あー警視、明日の捜査ですがね、…え?」 車を出そうとするナカムラの手を遮り、カガミがキーを戻した。 「えっ?何なに、なんなの?」 「もう、いいかげんにしませんか」 いつもの穏やかな口…

あとかた

「おい、あいつどこ行ったんだ?」見回して言う男の目には、がらんどうの部屋しか見えなかった。いや何もなかったわけではない、それなりに家具類はあって窓には地味だがカーテンもかかっている。食器も調理器具も数少ないがしかるべき家具におさまっている…

眼鏡

1 サザンテラスでの一件がひと段落ついて、カガミが漸くおれの話にぽつぽつと返事をするようになってきた頃、収監されて以来初めて、カガミの方から突然切り出した。 「ナカムラさん、あの」 「ん、何?」おれはちょっとびっくりして、でも努めて顔に出ない…