zencro’s diary

乱歩奇譚SS

ナカムラ

景色

「カガミ、おいカガミ!」 呼びかける声に、カガミ警視は目覚めた。 「あふぇ?」 「あ~、よかったぁ〜」 目を開けたカガミを見て、ナカムラはほーっと胸をなでおろす。 ぽかっとまぶたを開けたまま、不思議そうにナカムラを見上げるカガミ。続いて、カガミ…

おやつ

「こんにちはセンパイ」「おじゃまします」 「またお前らか。今日は眠い、帰れ」 「ハシバ君がアップルパイ持ってきてくれたんですよ、みんなで食べましょう」 「人の話聞いてるか」 「だって、ハシバ君のお母さんのお手製ですよ?フィリングだって、財閥の…

酒宴

「警視の髪ってクセがありますよねえ。ガッコとかで先生に目ェつけられたりとかしませんでした?」 アルコールが入って普段より気安さが増した気配のナカムラが、カガミの頭を弄っている。 「ええ、それに髪の色も薄いので染めてるのかと言われてましたね。…

往来

「カガミケイスケ、面会だ」 呼ばれ、カガミは面会室へ向かった。収監されて以来、しょっちゅうナカムラは面会に来る。それこそ以前ともに働いていた数年間と変わらぬ頻度で顔を合わせている気がするほどだ。これほど自分に時間を割いて、刑事の職務はちゃん…

6月のおもいで

「ナカムラさんいらっしゃいますか?……あれ、ここにもいない」 「なんだぁ、お前がここに顔出すって珍しいなカガミ」 換気レベルを最大にしてもなお視界が良くない部屋の中から声がする。 「一課にも姿が見えませんし、出かけるという報告もないんですよ。ご…

地下へ

直通エレベーターが警視庁最下層へと辿りつく。 分厚い鋼鉄の壁で周囲の音が完全に遮断された空間で、自身の足音と衣擦れの音のみを聞きながら、長い廊下を目的の房へ向かう。 突き当りに立つ当直官にバッジを見せ、正面のドアが重低音を響かせ開いてゆくの…

休暇

ナカムラさん、もう俺は、死刑が確定した人間です。そんな望みの無い人間のもとへ、ナカムラさんが日々、訪れてくださるのが、俺は正直辛いです。俺が犯罪者に堕ちるのを阻止できなかったと、あなたは負い目に感じているかもしれませんが、断じてあなたが責…

ドレス

カガミが釈放された。 出所の日、外で出迎えたナカムラは、しかし彼の様子がおかしいと勘づいた。 出所時の手続きも受け答えもちゃんとこなしていたのだが、何かがおかしい。 それは、馴染みの探偵事務所の連中も察したようだった。 それでも、その日は何か…

階段

この階段を降りるのも、もう何度目になるだろう。無愛想な蛍光灯が控えめに点灯するしんとした階段室。めざす場所は地下深いところで、途中のフロアは一切無い。震災後しばらくはエレベータ使用を憚り階段を利用する者もいたが、いまはまたほとんどの署員が…

去日

どの位こうしていたんだろう。 六畳間に猫背で胡坐をかき、頭の奥でシーンという音を感じながらぼうっとしていたら、窓の外は夕焼けから夜空になってた。どのくらい一緒に居たっけ。ほんの数年なんだよなあ。「ちゃん」、から初手柄で「くん」呼びになるのは…

バレンタイン

ナカムラが待機する車に、カガミがドアを開け助手席に座った。 「あー警視、明日の捜査ですがね、…え?」 車を出そうとするナカムラの手を遮り、カガミがキーを戻した。 「えっ?何なに、なんなの?」 「もう、いいかげんにしませんか」 いつもの穏やかな口…

あとかた

「おい、あいつどこ行ったんだ?」見回して言う男の目には、がらんどうの部屋しか見えなかった。いや何もなかったわけではない、それなりに家具類はあって窓には地味だがカーテンもかかっている。食器も調理器具も数少ないがしかるべき家具におさまっている…

眼鏡

1 サザンテラスでの一件がひと段落ついて、カガミが漸くおれの話にぽつぽつと返事をするようになってきた頃、収監されて以来初めて、カガミの方から突然切り出した。 「ナカムラさん、あの」 「ん、何?」おれはちょっとびっくりして、でも努めて顔に出ない…

「や、こんばんは」 「ナカムラさん?なぜここに?」「警視こそ、おうちに帰らずなぜここに?」「すみませんナカムラさん、私はこれから用があるので」「つれないなあ、一緒に行こうよ」「だめです」「どうして?」「どうしてもです」「おれのいうこと何でも…

協力要請

「なんで睡眠薬と頭痛薬ひっきりなしに飲むの?体に良くないよー成長期なのに」 「何だいきなり」 「わざわざ海外から取り寄せてんでしょ。飲み方だってさ、いっつも噛み砕いちゃって、しかも缶コーヒーなんかで流しこんでー。飲み合わせとかさ、よくないん…

喪失

「警視そこ危ないですよ、…って、ああ〜」ナカムラが指摘した直後、かしいだ棚の書類は雪崩のようにカガミの頭上から降り注ぐ。 「大丈夫ですかぁ警視?」 「は、はい。少し驚きました」 床に尻もちをつき、ふるふる頭を振りながら返事をするカガミ。そこへ…

現二十面相逮捕直前

「ナカムラ、お前も来るか?」 探偵さんはそう言っておれに目を向ける。 「いっやあ、おれが動いて、万一あいつに気付かれでもしたらマズイっしょ。それにさ、ヘタすりゃおれだって怪しまれる立場だもんね共犯として。仕事でこれだけつるんでたんだから疑わ…

愛してる/愛してない

「ナカムラさん、私を愛してますか?」「なんだよ急に」 「私は、ナカムラさんを愛しています」 「……ありがと」 「いや、お礼ではなく」 「今後ともよろしく」 「あいさつでもありません!」 「なんだってのよ」 「ナカムラさんからも、愛してると言ってほし…

告白

カガミは一般人相手だと、どうも歯切れが悪くなるらしい。今日も、地取りでG街を回っている時に妙な絡まれ方をしてこちらに救いを求めるような顔を向けてきた。で、おれが間に入ってその場を収めたのだけど。 「ねえ、どうしてそう弱腰になるのさ?ささっと…

訪問者

波の音を覆う程、飛び交ううみねこが姦しい。 それでも、ざしゅ、ざしゅ、砂を踏む足音が、次第に此方へ近づいて来るのが聞こえてきた。「やっぱり来たねえ、探偵さん」 眺めていた沖から頭上へ目を移しナカムラは言った。 「やっと、というべきかなあ」 「…

日常

[1]「ねえ、カガミく-ん」 デスクで入力作業をしているカガミの背後から、突然ナカムラが抱きついた。 「!?」 一瞬、何が起こったか理解できず硬直するカガミ。 「なっ、なななんですか?!」 首に回した腕をゆさゆさ揺さぶりながら、無精髭の生えた頰…

終幕

一連の二十面相騒動も、ナミコシの遺骸の発見でようやく真の終息をみた。 最後に逮捕された元シンパの女性宅で植物状態の彼が発見され、移送される途中で車ごと行方が分からなくなったと思ったら、取り壊し寸前の倉庫内で何者かに腹部を刺された状態で再発見…

よふけ

ふと目が覚めた。なんか、夢を見てた。 やたら喉が渇いて、やれやれと起き上がりトイレで用足しのあと、冷蔵庫からペットボトルを引き出し飲んだ。喉がカラカラすぎて、水が通ってゆくのが痛いくらいだったが構わずごぶりと飲み込んだ。 「……ふぃー」思わず…

面会続々

1「俺に気遣いはしなくていいですよ」地下へ行く度お前が言う。 おれが会いたくて来てるんだ、 何度言っても信じない。 自分には価値が無いと結論付けて、 茫洋とした眼にはおれが映っているのかどうかも分からない。そしておれは地上に戻り 囚人のように仕…

「コーヒー入ったよ」 「ありがとうございます」 水の匂いが満ちる室内に、ふうっと芳香が漂ってきた。 「雨だねえ」 「雨ですねえ」 ちゃぶ台の上に置かれたカップを手に取りひと口含む。 「……美味いなぁ」 「はい」 ナカムラはカップを持ったまま、畳の上…

鑑賞

「こないだ見た映画ですけど」 「うん」 「年上の女の子のベッドにもぐりこんだ男の子が」 「あー、男の子は成長止まってて見てくれは幼いけど実年齢は女の子と同じだからね?」 「ああ、そうでした。で、彼女のむきだしのへそにパウダーふりかけて」 「おま…

花火

「カガミさーん、こっちですよー」 「あ、ナカムラさんもいるな。あたま一つ分低いから分かんなかったな」 「やあコバヤシ君、流石に混んでるね」 「ここからだと割とよく見えますからねー両側の街灯がちょっと邪魔ですけど」 「だから有料席で見ればいいと…

疑惑

「あー、ついに降ってきましたねえ」 「ええ、駅まで急ぎましょうか」 築地署まで出向いて用を終えた後、外へ出たらポツポツと落ちてきた。 急いで手近の地下鉄入口へ入り、ふうと一息ついたら背後にものすごい雨音。 「ひゃあ間一髪だったねえ」 「うわ、す…

完成

「……ここは」「お、お目覚めかな?」 見回すとぐるりはコンクリートの壁だった。見上げると高い天井にはむき出しの配管。 どこかの古い倉庫跡か何かのようだ。 声の主は、壁の天井近くにはめ殺しになった窓から漏れる陽光を背に、不自然なほど距離を置いて立…

改変

カガミが横に居ない。 俺は、必死になってカガミの姿を捜す。 「カガミ、カガミ」 居ないことが致命的な事実に思えて仕方がなく、他の何にも目をくれずカガミを捜し続けた。 「カガミ、何処だ?」 やがて俺は、はたと立ち止まり思った。 「カガミって、誰だ…