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zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

6月のおもいで 続

「ふぁー今朝も眠いねえ」 いつものように布団の温みを名残惜しく思いつつナカムラが伸びをする。窓の方を見ると既に開いているカーテンから光はまだ漏れていない。 「あらー、今日はおてんとさんも寝坊かな」そんな事をまだ目ざめきらぬ頭でぼんやり考えて…

地下へ

直通エレベーターが警視庁最下層へと辿りつく。 分厚い鋼鉄の壁で周囲の音が完全に遮断された空間で、自身の足音と衣擦れの音のみを聞きながら、長い廊下を目的の房へ向かう。 突き当りに立つ当直官にバッジを見せ、正面のドアが重低音を響かせ開いてゆくの…

協力要請

(初出:privatter 2016-11-30) 「なんで睡眠薬と頭痛薬ひっきりなしに飲むの?体に良くないよー成長期なのに」 「何だいきなり」 「わざわざ海外から取り寄せてんでしょ。飲み方だってさ、いっつも噛み砕いちゃって、しかも缶コーヒーなんかで流しこんでー。…

現二十面相逮捕直前

(初出:privatter 2016-11-16) 「ナカムラ、お前も来るか?」 探偵さんはそう言っておれに目を向ける。 「いっやあ、おれが動いて、万一あいつに気付かれでもしたらマズイっしょ。それにさ、ヘタすりゃおれだって怪しまれる立場だもんね共犯として。仕事でこ…

休暇

ナカムラさん、もう俺は、死刑が確定した人間です。そんな望みの無い人間のもとへ、ナカムラさんが日々、訪れてくださるのが、俺は正直辛いです。俺が犯罪者に堕ちるのを阻止できなかったと、あなたは負い目に感じているかもしれませんが、断じてあなたが責…

喪失

(初出:privatter 2016-11-16)「警視そこ危ないですよ、…って、ああ〜」ナカムラが指摘した直後、かしいだ棚の書類は雪崩のようにカガミの頭上から降り注ぐ。 「大丈夫ですかぁ警視?」 「は、はい。少し驚きました」 床に尻もちをつき、ふるふる頭を振りなが…

ドレス

カガミが釈放された。 出所の日、外で出迎えたナカムラは、しかし彼の様子がおかしいと勘づいた。 出所時の手続きも受け答えもちゃんとこなしていたのだが、何かがおかしい。 それは、馴染みの探偵事務所の連中も察したようだった。 それでも、その日は何か…

階段

この階段を降りるのも、もう何度目になるだろう。無愛想な蛍光灯が控えめに点灯するしんとした階段室。めざす場所は地下深いところで、途中のフロアは一切無い。震災後しばらくはエレベータ使用を憚り階段を利用する者もいたが、いまはまたほとんどの署員が…

ホットケーキ 続

「アケチ先輩は、どうしてカガミさんを連絡係に指名したんですか?」 「なんだ今さら」 「カガミさんて立派な刑事さんだし先輩が白羽の矢を立てるの分かりますけど」 「ふん」 「でも、ナカムラさんもいましたよね。カガミさんに決定した理由って何でしょう…

6月のおもいで

「ナカムラさんいらっしゃいますか?……あれ、ここにもいない」 「なんだぁ、お前がここに顔出すって珍しいなカガミ」 換気レベルを最大にしてもなお視界が良くない部屋の中から声がする。 「一課にも姿が見えませんし、出かけるという報告もないんですよ。ご…

去日

どの位こうしていたんだろう。 六畳間に猫背で胡坐をかき、頭の奥でシーンという音を感じながらぼうっとしていたら、窓の外は夕焼けから夜空になってた。どのくらい一緒に居たっけ。ほんの数年なんだよなあ。「ちゃん」、から初手柄で「くん」呼びになるのは…

バレンタイン

ナカムラが待機する車に、カガミがドアを開け助手席に座った。 「あー警視、明日の捜査ですがね、…え?」 車を出そうとするナカムラの手を遮り、カガミがキーを戻した。 「えっ?何なに、なんなの?」 「もう、いいかげんにしませんか」 いつもの穏やかな口…

眼鏡 続

「や、また来たよー」入って来たナカムラが腕を組んだまま頭を傾ける。「すみません、いつも気にかけていただいて」「 いっやーおれの方こそ度々呼び出してごめんな。カガミが地下にいると思うとついつい足が向いちゃうんだよねえ」すっかり面会室にも馴染ん…

眼鏡

サザンテラスでの一件がひと段落ついて、カガミが漸くおれの話にぽつぽつと返事をするようになってきた頃、収監されて以来初めて、カガミの方から突然切り出した。「ナカムラさん、あの」「ん、何?」おれはちょっとびっくりして、でも努めて顔に出ないよう…

あとかた 後日譚

「あの爆発には肝が冷えたな」ナカムラが自室の冷蔵庫から発見され、直後に部屋が炎上した事件の数日後、二人は再び検分に焼け焦げた部屋に入った。「あーあ、見る影もないねえ」「やはりナカムラの死体は発見されなかったそうだな」先日、ナカムラの体が転…

あとかた 続

「ここ見たか?」部屋の中をあらかた検分した後、台所にぽつんと置かれた冷蔵庫を指さした。 「ああーそういえばまだだったな」 ひとり暮らしの男の部屋にしては少し不似合な大きさの白物家電が、狭い台所に幅をきかせていた。今まで気付かなかったが通電し…

あとかた

「おい、あいつどこ行ったんだ?」 見回して言う男の目には、がらんどうの部屋しか見えなかった。いや何もなかったわけではない、それなりに家具類はあって窓には地味だがカーテンもかかっている。食器も調理器具も数少ないがしかるべき家具におさまっている…