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zencro’s diary

乱歩奇譚SSと雑記

6月のおもいで 続

「ふぁー今朝も眠いねえ」 いつものように布団の温みを名残惜しく思いつつナカムラが伸びをする。窓の方を見ると既に開いているカーテンから光はまだ漏れていない。 「あらー、今日はおてんとさんも寝坊かな」そんな事をまだ目ざめきらぬ頭でぼんやり考えて…

地下へ

直通エレベーターが警視庁最下層へと辿りつく。 分厚い鋼鉄の壁で周囲の音が完全に遮断された空間で、自身の足音と衣擦れの音のみを聞きながら、長い廊下を目的の房へ向かう。 突き当りに立つ当直官にバッジを見せ、正面のドアが重低音を響かせ開いてゆくの…

休暇

ナカムラさん、もう俺は、死刑が確定した人間です。そんな望みの無い人間のもとへ、ナカムラさんが日々、訪れてくださるのが、俺は正直辛いです。俺が犯罪者に堕ちるのを阻止できなかったと、あなたは負い目に感じているかもしれませんが、断じてあなたが責…

喪失

(初出:privatter 2016-11-16)「警視そこ危ないですよ、…って、ああ〜」ナカムラが指摘した直後、かしいだ棚の書類は雪崩のようにカガミの頭上から降り注ぐ。 「大丈夫ですかぁ警視?」 「は、はい。少し驚きました」 床に尻もちをつき、ふるふる頭を振りなが…

ドレス

カガミが釈放された。 出所の日、外で出迎えたナカムラは、しかし彼の様子がおかしいと勘づいた。 出所時の手続きも受け答えもちゃんとこなしていたのだが、何かがおかしい。 それは、馴染みの探偵事務所の連中も察したようだった。 それでも、その日は何か…

6月のおもいで

「ナカムラさんいらっしゃいますか?……あれ、ここにもいない」 「なんだぁ、お前がここに顔出すって珍しいなカガミ」 換気レベルを最大にしてもなお視界が良くない部屋の中から声がする。 「一課にも姿が見えませんし、出かけるという報告もないんですよ。ご…

去日

どの位こうしていたんだろう。 六畳間に猫背で胡坐をかき、頭の奥でシーンという音を感じながらぼうっとしていたら、窓の外は夕焼けから夜空になってた。どのくらい一緒に居たっけ。ほんの数年なんだよなあ。「ちゃん」、から初手柄で「くん」呼びになるのは…

バレンタイン

ナカムラが待機する車に、カガミがドアを開け助手席に座った。 「あー警視、明日の捜査ですがね、…え?」 車を出そうとするナカムラの手を遮り、カガミがキーを戻した。 「えっ?何なに、なんなの?」 「もう、いいかげんにしませんか」 いつもの穏やかな口…

眼鏡 続

「や、また来たよー」入って来たナカムラが腕を組んだまま頭を傾ける。「すみません、いつも気にかけていただいて」「 いっやーおれの方こそ度々呼び出してごめんな。カガミが地下にいると思うとついつい足が向いちゃうんだよねえ」すっかり面会室にも馴染ん…

眼鏡

サザンテラスでの一件がひと段落ついて、カガミが漸くおれの話にぽつぽつと返事をするようになってきた頃、収監されて以来初めて、カガミの方から突然切り出した。「ナカムラさん、あの」「ん、何?」おれはちょっとびっくりして、でも努めて顔に出ないよう…