zencro’s diary

乱歩奇譚SS

カガミ

一服

「あのーカガミ警視、何かありました…?」 「は、何か、とは」 「いえね、言っちゃなんですが朝からずっと変ですよー、デスクの上のスマホじっと眺めちゃため息ついて、ときどきデスクに突っ伏してたり、会議の時間を間違えて遅れそうになるし」 「ははは、…

足猫

「きょうさ、うちで飲まない?」 「ナカムラさんの家ですか、でもご迷惑では」 「いや、ひとり住まいだし。うちなら時間気にしないで飲めるし、何なら泊まっちゃえばいいしさ。きょう妹さん留守なんでしょ」 長引いていた仕事もひと段落の上にあすは揃って非…

こたつ

「ただいまっと、ひゃあ寒い寒い~」 靴を脱ぐのももどかしく、ナカムラはドアを開けるとバタバタ室内に駆け込んだ。 「おかえりなさいナカムラさ…うわっ!」振り返ると同時にいきなり抱きついてきたナカムラに、カガミは目を白黒させる。 「わあー、カガミ…

七草の春

1. ひととおり掃除が済んで、今夜は何にしようかと冷蔵庫の扉に手をかけたとき、ドアで鍵を開ける音に続いて、「ただいまぁ…」とくたびれた声が聞こえてきた。 「おかえりなさい」と玄関に顔を向けたところで、おや?と壁の時計に目をやる。 「今日は早いで…

聞き込み帰り、商店街を突っ切る途中。 シャッターを降ろしている店が多い中、ぽつんと小さな果物屋が開いていた。 年始まわりに買い求める客でもいるのだろうか、季節外れの果物を詰めた箱やかごが所狭しと並んでいる。その中で、瑞々しく鮮烈な赤が目を引…

初詣0

晴れた正月の昼近く。 プルルルルル……ガチャ 「ふあぁ、あーはいはいナカムラですー」 頭上にある携帯電話をつかみ、布団に引きずり込んで応答する。 「…はい?トキコさん!?あぁ、どーもどーも、あけましておめでとうございまぁす。へ?ええ、元日はわたし…

年の瀬

「カガミ、面会だ」 何度も読み返した文庫本から目を上げ、カガミは看守の方を見上げた。 「はい。申し訳ありませんがお断りしてください」 またか、という顔をして看守は遠ざかる。カガミは再びてもとの本に目を落とした。 (おいおい、まーた追い返すのか…

食慾

ナカムラさん ナカムラさん ナカムラさん よばれるたび背筋がぞくりとする、心臓が破れるかと思うほど鼓動する。カガミちゃん カガミくん カガミ警視 言われるたび躰を巡る血流が、怒涛となって全身が火照る。息が、あがる。 傍目に気づかれないようにするの…

冬至

曇天の寒空。 突っ切る公園のどんよりした色彩を眺めていると、時が止まり、皮膚にひんやりと沁みる冷たい空気に包まれたまま、一生が終わってしまうような、そんな気がしてくる。鬱々とした気分を吐き出すようにハアッと息を吐くと、体温が白い吐息となって…

幻続

ナカムラさんは、かつて私をすきだと言った。 どんな理不尽に打ちのめされても目を逸らさず立ち向かう姿がすきだと。 でも彼がすきだったのは、彼が好ましいと思う私の虚像だ。 あなたが好きなカガミは、私ではなく、私になぞらえたあなたの理想。 あなたが…

牛乳・雨音

牛乳 目覚ましが鳴るより早く目覚めた。ふとんから出た顔や腕が冷えていて、急いでふとんの中へ引っ込める。顔までうずめると暗くて柔らかくて息苦しくて、先程まで見ていた夢にまた引きずり込まれそうな気がする。ゾッとするような、でも抜け出したくないよ…

電話

…はい寝てた? いえ。何かありましたか?ごめん、そういう訳じゃ無いんだけど何でしょうあのね、おれ、カガミに会えて良かったなぁえ突然ごめんなー なんか急に、無性に聞いてもらいたくなっちゃって私も、ナカムラさんと一緒に働けるのが嬉しいですえへへナ…

銀杏

秋も終わりで日もとっぷり暮れて、公園にはひとっ子ひとりいない。 街灯が点灯するなか署へと急ぐナカムラとカガミは、連日の地味な捜査活動で疲労困憊だった。 「ナカムラさん」 「んー」 「銀杏の落ち葉、ふわふわですね」 「そだねー」 「倒れ込んだら、…

視線

最近さ、なんか視線を感じるんだよね そうですか それほど気持ち悪いわけでもないんだけどね おれどっかおかしいかな。あれか、自意識過剰?なのかな …ナカムラさんは、おかしいことなんてありませんよ そう? カガミがそう言うなら大丈夫かなあ 大丈夫です……

「あ、こんにちはカガミさん」 「ああ、コバヤシ君。新しい学校はどうだい?」 「休みなく通ってますよー、最近退屈してきましたけど」 「‪通っていたって、授業は所々エスケープしてるじゃないか。お前は不登校許可なんてもらってないんだから、このままだ…

電球

ナカムラは、よくぼうっとしている時がある。 「ナカムラさん」 「…」 「…」 「…あ、なんか言った?」 「いえ、窓際にずっと座ってたら冷えませんか」 「いやあ、そうかな?そうでも…へくしっ、あ、やっぱ寒いかも」 今さらのように気付きブルっと身を震わせ…

得意料理

「得意料理?」 「ナカムラさんの料理は全て美味しいですが、最も自慢できるものって何だろうかと」 「そーだなー」 「あ、私はナカムラさんの作るきんぴらごぼうが特に大好きですが」 「が?」 「きんぴらごぼうを炊きたてご飯にのっけていただくのがすごく…

ポインセチア

「やー、思ったより手間取ったね」 「すみません、俺が要領を得ないばかりに」 「いやぁ、こういう事は窓口の人との相性もあるからなー。波長が合わないとさ、まーなかなかまとまらないもんだよ」 区役所での用事を終え、ふたりが外へ出ると透きとおった空の…

ケーキ

「きみ、あまいもの平気だったよね」 玄関ドアを開けるなりナカムラが聞いた。「ああはい、まあ」「よかった。じゃ、これ」靴も脱がずに四角い箱を差し出す。「ケーキだよケーキ、ご飯の後にでも、デザートで食べよう」突然ケーキの箱を手渡され呆然としてい…

欠片

パリーン 陶器の割れる音がして、ナカムラがぞの場にしゃがみ込む。「あーーーやっちゃったああああ」見れば彼の足元には白い「C」のかたちのかけらが転がっている。「このカップ気に入ってたのにな、あーあ」持ち手が取れてしまったマグカップを拾い、散乱…

デイドリーム

1 外が騒がしい。収監されている部屋の明かりが点滅している。 外の係員の怒号と争う音、金属の破壊音、夥しい足音とおれも外へ出せという叫び、明らかに統率しようとする側が圧倒されている様子が音だけでもわかるような異常事態。 何も対応しようがないの…

いつかの誕生日

「ナカムラさん、もしかしてあす誕生日じゃないですか?」 隣席のカガミが勢い込んで尋ねてきた。 「なんですかぁ、藪から棒に…そうだよ」 唇につけたグラスもそのままに、あからさまに嫌そうな顔で答える。 「おめでとうございます!お幾つになられたんです…

なぜ

ナカムラさんは尋ねないのか。 俺が僅か一週間で15人も殺害したのは、誰かの手助けがあったのではないかと。他の模倣犯らとの接触は無かったのかと。 きのうの面会でナカムラさんは、二十面相装束の出所について聞いてきたが、それもアケチ君から言われての…

衣装

『私は二十面相。償いを知らぬ罪人はこの名に怯えるがいい』 目の前のパソコンで再生される動画は、当局が消しても消しても不特定多数の人間が次々とアップしてきて追いつかない。検索すれば唸るような投稿数にのぼり、既にどれがオリジナルか判別も不可能で…

また別の朝の風景

ナカムラさんが布団から出てこない。「どうしたんですか、仕事に遅れますよ」「ンー」モゾモゾモゾ。布団のこんもりした山がイヤイヤをするように緩慢にうごめく。「どこか、具合がわるいんですか?」「ンー?ンーン」モゾモゾモゾ。「ごはんですよ」「ねむ…

「や、きょうは一段と冷えるねえ」帰って来たナカムラは猫背をさらにまるめてブルっと震え、六畳間に座る。「ナカムラさん、また靴下も履かないで。素足じゃ、ますます冷えますよ」「だってムレるんだもん。家にいるときくらいうっとおしいもん外して清々し…

南瓜

「ハロウィンねぇ。わたしの子ども時代にそんなお祭りなかったけど、カガミくん、やってた?お菓子かイタズラか!ってさ」 「いえ、私は全く。流行りだしたのはここ数年ですよね。そういえばトキコは友達と街へ繰り出すようになりましたね。学校でも仮装パー…

休息・幻

休息 傍目には淡々と、諸々の手配や手続きを終えた後、カガミは休みなく出勤していた。 「警視、少し休まれた方が良いですよ。わたしらでなんとかしますから」 「いえ私は大丈夫ですから。それよりナカムラさん、例の件ですが」 ナカムラのすすめにも丁寧に…

空気

このままでは、まずい。とカガミは思った。自分は昔から、あまり人の体に触ったりすることは無かった。たった一人の肉親だったトキコに対しても、せいぜい頭をなでるぐらいだったと思う。 それが、出所後ナカムラさんに厄介になってしばらくたった最近では、…

9月9日

このところ涼しくなったと思ったのに、今日はまた陽射しがきつい一日だった。 やれやれと思いながら古びた冷蔵庫を何となく開けて、缶ビールとキュウリを取り出しいったん閉めたが「あれ?」と思いまた開く。 ああ、そういえばこんなん入れといたっけ。 買い…