zencro’s diary

乱歩奇譚SS

アケチ

デイドリーム

1 外が騒がしい。収監されている部屋の明かりが点滅している。 外の係員の怒号と争う音、金属の破壊音、夥しい足音とおれも外へ出せという叫び、明らかに統率しようとする側が圧倒されている様子が音だけでもわかるような異常事態。 何も対応しようがないの…

なぜ

ナカムラさんは尋ねないのか。 俺が僅か一週間で15人も殺害したのは、誰かの手助けがあったのではないかと。他の模倣犯らとの接触は無かったのかと。 きのうの面会でナカムラさんは、二十面相装束の出所について聞いてきたが、それもアケチ君から言われての…

kawaii(乱歩奇譚ワンクリお題「寝起き姿」)

「そういえばふたりで探偵事務所に来るの珍しいですよね?…あれっ留守かな。上がって待ってましょうか」 ナカムラは慣れた様子で合鍵を使い、刑事二人は部屋に上がりこんだ。 「あー、なんだぁ探偵さん寝てるよ。へぇ、宮付きだの天才少年探偵だの言っても、…

おやつ

「こんにちはセンパイ」「おじゃまします」 「またお前らか。今日は眠い、帰れ」 「ハシバ君がアップルパイ持ってきてくれたんですよ、みんなで食べましょう」 「人の話聞いてるか」 「だって、ハシバ君のお母さんのお手製ですよ?フィリングだって、財閥の…

協力要請

「なんで睡眠薬と頭痛薬ひっきりなしに飲むの?体に良くないよー成長期なのに」 「何だいきなり」 「わざわざ海外から取り寄せてんでしょ。飲み方だってさ、いっつも噛み砕いちゃって、しかも缶コーヒーなんかで流しこんでー。飲み合わせとかさ、よくないん…

現二十面相逮捕直前

「ナカムラ、お前も来るか?」 探偵さんはそう言っておれに目を向ける。 「いっやあ、おれが動いて、万一あいつに気付かれでもしたらマズイっしょ。それにさ、ヘタすりゃおれだって怪しまれる立場だもんね共犯として。仕事でこれだけつるんでたんだから疑わ…

訪問者

波の音を覆う程、飛び交ううみねこが姦しい。 それでも、ざしゅ、ざしゅ、砂を踏む足音が、次第に此方へ近づいて来るのが聞こえてきた。「やっぱり来たねえ、探偵さん」 眺めていた沖から頭上へ目を移しナカムラは言った。 「やっと、というべきかなあ」 「…

ホットケーキ

「アケチ先輩って、料理得意なんですよね。なにか作ってくれませんかー?」 「誰から聞いた」 「カガミさんですが」 「う、言ってはまずい事だったか、アケチ君?」 「まあまあ、探偵さんそんなに睨み据えたら警視びびっちゃいますよ?悪口じゃなく褒めてん…

忌避

いつものごとく打ち合わせのため探偵さんの部屋へ出向く。 「ほい、こんちわー上がらせてもらいますよー」と声をかけたが、いつもの「靴脱げよ」の号令が無い。あれえ、開けっ放しで出かけちゃうなんて不用心、探偵さんにしちゃあ珍しいなあと思いつつずかず…

立春

みぞれ混じりの中、彼らの墓の前に辿り着く。来ても別に何するわけでもなく、花を置き傘の柄を首と肩でおさえながらハイライトを取り出して一本口にくわえ、ライタで火を点ける。二口ほど吸うと、薄暗い灰色の景色の中で赤い色が点滅する。線香替わりのよう…

初詣

今年の元旦は自宅で過ごせることになっていたのでゆっくり寝ていようと思っていたら携帯が鳴った。やれやれと思って画面を見たら"コバヤシ"。ありゃー探偵さんの呼び出しかあ。「はいはいなんでしょう?」「明けましておめでとうございまーす。ナカムラさ…

海なんて嫌いだった。 顔にまとわりつくベタベタした粘度のある潮風や足指の間にいやらしく潜り込む浜辺の砂、そこらにはびこったフナ虫や蠢く小蟹、未練たらしく地べたや岩に貼り付いた海藻エトセトラエトセトラ。だが何より嫌いなのはどこまでも果てしがな…